エコエコアザラクIII

1997/10/29 GAGA試写室
スタッフ・キャストを一新した人気シリーズ第3弾。
工夫が足りず、全体に力不足。by K. Hattori



 主人公・黒井ミサ役が、吉野公佳から佐伯日菜子にバトンタッチされ、監督も佐藤嗣麻子から上野勝仁に交代した人気シリーズ第3弾。陰気な吉野から明るい佐伯に主役交代で映画のイメージが少し変わるかと思ったら、佐伯は吉野の作った黒井ミサ像を踏襲するだけで新しさはなかった。主役を代えるなら、原作コミックにあったコミカルな黒井ミサを登場させるなど、新しさは作れると思うんだけど……。もっとも佐伯日菜子の黒ミサは、この作品のテレビ版の延長上にあるものなのでしょう。

 僕はテレビの方を観ていないんですが、彼女の叔父である魔法医学者・黒井サトルという人物は、テレビには出ている人なのかな? この人はひとりでコミカルな役回りを演じていて、なかなか面白く見られました。ただ、それもひとりでやっているだけなので、話にふくらみが出ることはない。叔父のはしゃぎぶりに合せて主人公が何らかのリアクションをとれば、話に奥行きが生れるでしょうに。これは少し残念でした。

 映画はシリーズ1作目の焼き直しという感じ。夜の街に突然現われた謎の死体、という出だしが似ているし、主人公が学校に乗り込み、深夜の校舎で友人の生徒たちを守りながら戦うという構成も同じ。ところが1作目に出演していた菅野美穂にあたる強烈な脇役がいない分、今回の映画は中途半端になってしまったと思う。七海彩夏扮する演劇部員・亜夜はよく描けてましたが、萩原由紀演ずる演劇部部長のキャラクターが平面的で意外性がなかった。転校生黒井ミサと強い絆で結ばれる友人がひとりでもいればいいのですが、もともといる演劇部員たちの結束の方が強くて、ミサがその輪の中からはじき出されています。これでは物語に入りこめない。

 映画の後半は、酒鬼薔薇事件や『エヴァンゲリオン』の影響が濃厚に漂う展開になります。本当の心を持たぬ存在が、無残に殺された犠牲者たちの魂を悪魔に捧げる代償として、新しい魂を得るという設定ですが、悪魔の名前はきっと「バイオモドキ神」というに違いない。最後の生け贄とされた女生徒が、自分自身と自問自答してパニックになる場面や、幻想の中から傷つきやすい現実の中に戻ってくる場面などは、もろに『エヴァンゲリオン』の影響を受けていると思いました。真似がいけないとは思いませんけど、物語の根幹に関わる部分でこうした「借り物」に頼ってしまうと映画全体が弱くなる。

 物語の構造としても、惨劇が我々のいる場所とは別の異世界で行なわれているという設定にやや興醒め。殺人という非日常的な行為が、日常の真っ只中に侵入してくるところが恐ろしいのに、非日常的な空間で殺人が起っても恐くないよ。プロレスのリングの上でレスラー同士が肉弾戦を演じても単なる見世物だけど、屈強な大男同士が駅のホームで突然戦い出したらちょっと恐いでしょ。映画の中の殺人には、そんな効果が必要なんです。わざわざ殺人用のお膳立てを用意するから、どんな出来事も意外性がなくなってしまう。ちょっと白けたぞ。


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