ワイルドバンチ
オリジナル・ディレクターズ・カット

1997/10/28 シネカノン試写室
映画史に残るサム・ペキンパーの代表的傑作がスクリーンに帰ってきた。
今回はこの映画のメイキングフィルムも同時上映。by K. Hattori



 サム・ペキンパーの代表作『ワイルドバンチ』には幾つかの異なったバージョンがあって、今回観たのは『ワイルドバンチ/オリジナル・ディレクターズ・カット』というもの。上映時間は2時間25分。この映画が最初に公開された時の上映時間は2時間14分でした。その後『ワイルドバンチ完全版』というビデオが発売になっていて、そちらは2時間23分。この『完全版』と『オリジナル・ディレクターズ・カット』の違いって、いったいどこにあるんだ?

 『ワイルドバンチ』は時代に取り残され、滅んで行く男たちのドラマです。時は20世紀初頭。既にフロンティアもなく、西部の荒くれ男たちの末裔はメキシコ国境付近にまで追いつめられている。自分たちの行為が明らかに時代遅れの犯罪だということに気付きながら、そうした生き方を変えられない男たち。映画のクライマックスで主人公たちと壮絶な「死の舞踏」を踊ることになるマパッチ将軍たちも「時代遅れ」という意味では主人公たちと同類なのですが、観客が主人公側に過大な感情移入をするのは、彼らが自分たちの行為の時代錯誤性を自覚していることに、一片の哀れみを感じるからです。

 「これが最後の仕事だ」と言う、チームのリーダー格パイク。でも、本当にそうなんだろうか。仮にその仕事が成功したとしたら、彼らはまたすぐに次の仕事を考え始めるのではないだろうか。彼らは「最後の仕事」程度で生き方を変えられるような男たちではない。「これが最後の仕事」という言い方には、底の部分で嘘がある。彼らにとって「最後の仕事」とは、「どこで捕えられるか」「どこで死ぬか」ということと同義なのです。それがわかっているからこそ、彼らはこの映画の最後に、自分たちなりの「最後の仕事」に取り掛かろうとする。

 最後の戦いに向かう男たちを描いた「死への行進」は、後に『トゥームストーン』で引用されていたほど有名で印象に残る名場面。この場面をペキンパーがどう演出していたかは、今回『ワイルドバンチ/オリジナル・ディレクターズ・カット』と同時公開される『ワイルドバンチ/アルバム・イン・モンタージュ』という記録映画に詳しく述べられています。この場面は最初シナリオになく、現場でペキンパーが即興的に思い付いたものだそうです。歩いて行く4人の男たちの立ち位置やポーズなどは出来上がった映画を観ると完璧ですが、そこに至るまでには何度かの試行錯誤があったこともわかります。

 僕は『ワイルドバンチ』をテレビで見たことしかなかったのですが、今回スクリーンでクライマックスの「死の舞踏」を観て、あまりの迫力に圧倒されて身じろぎひとつできなくなりました。この圧倒的な映画的興奮、映画だけが作りうる時間と空間の表現、生と死のドラマは、テレビやビデオでは全体像の半分も伝わらないと断言できます。69年(昭和44年)製作の古典的な映画なので、観た人は多いと思いますが、まだの人はぜひともこの機会に劇場で観てみてください。


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