ボンデージ・ゲーム

1997/10/23 TCC試写室
内容は完璧なB級エロティック・サスペンスなのに、ちっともエロじゃない。
力まず自然体の主人公が持つ強さが好印象を残す。by K. Hattori



 ランジェリー、近親相姦、秘密売春組織、SM、義歯に仕込まれたドラッグ、性感マッサージ、大富豪のハーレム、遺産相続人、完全犯罪など、どぎつい素材が目白押しなのに、後味はさっぱりとした不思議な映画。どぎつくグロテスクな方向に進みそうだと見せかけて、すんでのところで一線を踏み越えない微妙な描写の数々が、危ういバランスを保った繊細な映画を生み出しています。安っぽく、描写の線が細いだけの失敗作ではない。この映画がこうした仕上がりになっているのは、きちんとした計算に基づいた確信犯だと思う。

 この映画を普通に演出すると、「異母兄への禁じられた愛に殉じるため秘密売春組織に潜入した主人公が、まんまと組織のボスを殺して遺産をせしめる一方、組織で知り合ったハンサムなマッサージ師との恋に落ちて、地獄のような近親相姦の泥沼から抜け出す……」といったストーリーラインを強調しそうです。ところが、この映画はそうしない。売春組織を探ろうとする警察権力からの圧力に抗いながら、主人公が単独で組織に潜入する主人公は、あらゆる権力や暴力に屈することのない強い女です。それは「兄への愛」のなせるわざなのかというと、どうもそうでもないらしい。

 彼女は単に、自分のしたいようにしているだけなのです。彼女は「恋」のために行動しているわけではない。彼女は誰にもコントロールされないし、誰にも振り回されない。彼女は常に、彼女自身のペースで行動している。厳格な組織のルールですら、彼女の前には屈してしまう。世間のルールやモラルを軽々と踏み越えながら、そんな自分自身に少しの罪悪感も持たなければ、身の危険も考えない女。それを裏打ちしているのは、自分自身に対する絶大な自信に他なりません。彼女はどんな時でも、自分自身を見失わない。なんとクールなヒロインでしょう。

 舞台になっているのはフランス。パリから車で少し走った郊外に、秘密売春組織の中核となっているシャトーがあるという設定。そこに集められた選りすぐりの美女たちは、専門的な訓練を受け、肉体を性の奴隷に改造されて行きます。専用の下着、性器に詰める栓、同輩からの助言、専門教師からの手ほどき、そして剃毛……。こうした道具立ては、ポーリーヌ・レアージュの「O嬢の物語」からの引用です。この映画が持っている文芸趣味の源泉は、そんなところにあるのかもしれません。この映画は現代版の「O嬢の物語」なのです。

 主演のキャロライン・ロウリーがじつに魅力的。あどけなさの残る美しい顔で、「そんなことまでやるか〜」というHな場面の連続です。中でもイナゴにはぶったまげたぞ。主人公が高級売春婦なのに直接的なからみシーンがないのは、意外といえば意外ですが、それが主人公の清潔な印象を高めています。彼女は観客に対して、自分の醜い部分を見せない。それは「女優様がもったいぶってる」といった高慢さではなく、映画の作り手の思想なのでしょう。不思議と爽快な印象が残る映画でした。


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