マンハッタン

1997/10/16 シネスイッチ銀座
ジョージ・ガーシュインの音楽が効果的に使われたモノクロ映画の傑作。
男の持つ幼さや甘えん坊ぶりがよく描けてます。by K. Hattori



 モノクロームで撮影されたニューヨークの街並みと、ジョージ・ガーシュインの音楽がぴったりとマッチして、それだけで「おしゃれな映画」に見えてしまう作品。2度の結婚と離婚を経験した中年男が、17歳の女子高生の中に安らぎを見出すというお話です。以前ビデオで見たときは取りたててどうとも思わなかったけど、その頃の僕は主人公より「17歳の高校生」の方に年齢が近かったんです。30過ぎた今になると、けっこう主人公のぐずぐずした態度に共感してしまうなぁ。17歳といえば日本では「コギャル世代」ですけど、この映画のマリエル・ヘミングウェイの大人っぽいこと……。(ま、これには時代性もある。ほぼ20年前の映画ですもん。)主人公に子供っぽいところがあるから、余計に彼女の中の大人の部分が目立つよなぁ。ラストシーンなんて、彼女が主人公にやんわりとお説教までして、それがぜんぜん不自然にも嫌味にも見えないところがすごい。

 主人公がマリエル・ヘミングウェイに、「僕と君との仲は一時的なもので、君はいつか僕から離れて行くさ」と強調するのが、彼の行動の逃げ道になっている。大人ぶって子供に意見しているわけではなく、むしろ彼女に過度に干渉されるのを恐れているのですね。主人公は17歳の女の子からの一途な愛情を、正面から受け止めるだけの度量がない。「僕は僕で、君は君。互いに自由でいましょう」という態度も、度が過ぎるとちょっと薄情です。ダイアン・キートンと付き合い始めて、彼女に別れを切り出すとき「僕たちの仲は一時の物だって言ってたじゃないか」とはひどい言い草。そんなことをことさら強調していたのは、主人公だけなんですもんね。でも、こうしたずるい態度に共感してしまうのも事実。マリエル・ヘミングウェイの涙に同情しながら、「しょうがないよ」と思ってしまうのだなぁ……。

 本当に身近にいると、人間は互いの愛情に対して無頓着になってしまう。ダイアン・キートンは恋人別れてから自分の本当の愛情がどこにあるのかに気付くし、彼女に去られた後になって、主人公も自分が本当に愛していたのが誰なのかに気がつく。物語のクライマックスで、彼が自分のお気に入りの品々を次々リストアップして行き、最後にマリエル・ヘミングウェイ演ずる若い恋人の名前をポツリとつぶやく場面にはホロリときた。これって『マイ・フェア・レディ』のヒギンズ教授だよな。音楽は「He Loves and She Loves」でしんみりとさせ、ウディ・アレンが街を走り始めると勇壮な「Strike Up The Band」にかわる。結末は知ってるんだけど、このあたりでは手に汗握って主人公を応援してしまう。

 自分で留学を薦めたくせに、自分で別れを切り出したくせに、「行かないでくれ。僕とやり直してくれ」と言う主人公の虫の良さ。でも本当の愛情って、結局は相手を何らかの形で拘束したいという気持ちに結びつくんだと思う。それは自分が相手から拘束されるということでもあるんだけどね。よくできた素敵な映画です。


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