ジャガー

1997/10/14 TCC試写室
ジャン・レノが南米のジャングルを守るために肉体を賭して戦う。
似たテーマの『沈黙の要塞』より数段面白い。by K. Hattori



 南米インディオの呪師ワヌが、ジャングルの環境保護を訴えるためヨーロッパ各国を訪問しているところから物語がはじまる。本人にとっては正装なのだろうが、欧米人の感覚からは「半裸」にしか見えない風体でロールスロイスから降り立ち、一流ホテルのロビーを闊歩するワヌの姿はそれだけで面白い。そんなワヌとパリのホテルのエレベータで偶然出会ったペランという男が、どういうわけかワヌの大のお気に入りになる。やがてワヌは原因不明の病気で危篤状態になるが、彼は「私は先日、魂を盗まれる夢を見た。このままでは私は死ぬ。ペランこそ、魂を取り戻してくれる運命の男だ」と言い、ペランに魂を取り戻すたびに出てくれと願う。ワヌの説明を迷信だと笑うペランだったが、ギャンブルで作った借金が返せずギャングから命を狙われていることもあり、ワヌの話を口実に、南米アマゾンへと逃げ出すことにする。

 「ジャン・レノ主演」という宣伝をしている映画ですが、主人公ペランを演じるのはフランスの人気スター、パトリック・ブリュエル。ジャン・レノは、ワヌの通訳兼ジャングルの案内人、カンパナを演じてます。カンパナはフランス外交官の息子として少年時代をアマゾンのジャングルで過ごし、少年時代に両親が死んでからはインディオたちに育てられたという設定。じつに都合のいい設定ですが、脇役ということもあって、アラが見えない程度にはキャラクターを作ってます。何よりジャン・レノがこの役をやることで、単なる「都合のいい設定」に肉体的な裏付けとリアリティが生まれました。

 主人公の行動の動機が、ある時は借金の肩代わりを探すため、ある時は借金取りから逃げるため、ある時はジャングルで知り合った美しい女性のため、ある時は男同士の友情に免じてなど、次々と変化して行くのが気になった。こうした変化が主人公の成長ぶりを必ずしも示していないので、物語の方向が途中からねじれて、話があらぬ方向に曲がってします。しかしこれらも、B級娯楽映画としては許さねばならぬ範囲でしょう。中盤から脱線模様になる南米美女マヤとペランのロマンスも、マヤ役のパトリシア・ベラスケスがチャーミングなので、むしろ喜ぶべき脱線と言うべきかもしれない。この映画に彼女が出演していなかったら、ずいぶんと映画の印象が変わっていただろうと思います。

 タイトルになっている『ジャガー』とは、主人公がインディオの呪師から授かった精霊のパワーを指している。旅に出る主人公に呪師がお守りを渡すエピソードは、スティーブン・セガールの『沈黙の要塞』にも出てきました。あの映画では「迷信など役に立たない」ということで、お守りのエピソードが途中から消えてしまいますが、『ジャガー』では映画作りの作法を尊重して、お守りが最後の最後にとんでもないパワーを発揮します。

 それにしても、フランスでもこういうB級のアクション映画を作っているのだと知ると、なんだか嬉しくなり、元気にもなってくる。日本でもこんなの作ってほしい。


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