タオの月

1997/10/03 新宿松竹(完成披露試写)
『ゼイラム』シリーズの雨宮慶太監督が撮ったSF時代劇アクション。
チャンバラがもう少し多ければ満点をあげたのに。by K. Hattori



 チャンバラ時代劇にSF要素をミックスした、雨宮慶太監督の最新作。チャンバラとSFを組み合わせた映画というと、林海象の『ZIPANG』という怪作もありました。基本的には似たようなものですが、雨宮慶太には林海象のように果てしなく自己表現のみに邁進してしまう部分がないので、安心して観ていられます。作り手がちゃんと観客の方を向いて映画を作っていますからね。雨宮監督が本当にこの路線が好きなら、次はぜひ『仮面の忍者赤影』を映画化してもらいたい!

 チャンバラ時代劇は基本的に個人技の世界なので、今となっては作るのが難しいジャンルです。この映画に主演している永島敏行も、「本格的な殺陣のついた時代劇は初めてです」と言ってました。この人は『曼荼羅/若き日の弘法大師・空海』に出演していたから、本格時代劇自体は初めてじゃない。ちなみに今回の永島敏行の役は、酔狂という坊主の役ですが、榎木孝明演ずる角行という修験者風の坊主と念力合戦をやります。念力合戦は特撮が使えるから、チャンバラの素人でもなんとかさまになる。その点、チャンバラ担当の阿部寛は大柄な体をフルに使ったダイナミックでスピード感のある立ち回りが見せましたが、寄せてくる無数のからみをバサバサ斬り倒すだけだから面白味はいまひとつ。やっぱりチャンバラの醍醐味は、剣豪同士の一騎討ちでしょうに。その点、この映画には1対1の真剣勝負が描かれておらず、チャンバラ劇としては規格外品です。

 太古の昔、地球に落ちてきた異星の生物兵器マカラガ。それを封印した不思議な金属から作られた宝剣は、固い岩も豆腐のようになめらかに切断し、刃こぼれを自分の力で直してしまう力を秘めていた。宝剣の謎を探るため、国主忠興に調査を命じられた酔狂と疾風は、途中の道で蜂蜜とりの少女れんげに出会い、彼女の案内で先に進んで行く。彼らの到着からマカラガの秘密を知った角行は、マカラガの力を使って世界の支配を夢見るが、マカラガは人間にコントロールできるようなものではなかった……、という物語。終盤は封印を解かれたマカラガが実体化し、人々を食って食って食いまくります。この映画は、チャンバラ時代劇に怪獣映画をプラスしたものだったんですね。CGで描かれたマカラガはなかなかの迫力です。

 キャラクターの中では阿部寛演ずる疾風という剣客が、真面目一本槍で面白味に欠ける。角行の法力で意識の自由を奪われ、永島酔狂と一騎討ちでもやらせれば、映画としては見せ場になったでしょうに。あるいは宇宙から来た異形の者と疾風を戦わせるとか……。敵と味方が五分と五分の力で切り結ぶところが観てみたかったな。

 内容的にもっと本格時代劇に近づけることもできるはずなのに、まったくそうしないのが雨宮監督の嗜好なのでしょう。怪獣の造形や異形の者のコスチュームなど、時代劇であることを拒否している感じ。ただし、前半から中盤にかけてより、終盤で特撮アクションに入ってからの方が映画は面白いので、それもいいと思う。


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