ファングルフ
月と心臓

1997/09/09 松竹第1試写室
ジョン・ランディスの名作『狼男アメリカン』の正統派続編映画。
ジュリー・デルピーがワイルドな狼女役。by K. Hattori



 ジョン・ランディス監督の異色ホラーコメディ映画『狼男アメリカン』の続編。前作で警官隊に撃たれて死んだ狼男には娘がいて、それが今回ジュリー・デルピーの演ずるヒロインへと成長しているわけです。映画の舞台は前作の舞台ロンドンからパリに移動。今回も罪のないアメリカ人バックパッカーが襲われて狼男に変身し、数人の犠牲者を出しながらその亡霊に追いかけられるという、話の基本的な流れは変わっていない。原題は『AN AMERICAN WEREWOLF IN PARIS』で、まるきり前作の『AN AMERICAN WEREWOLF IN LONDON』を踏襲している。

 狼男の設定などもほぼ前作と同じだが、前作から16年の月日が流れていることもあって、変身の特撮はほぼ完全にCGに変わってました。前作はリック・ベイカーの作った特撮がひとつのウリだったんだけど、今回はその再現まではできなかったみたい。犠牲者の幽霊が時間経過と共にどんどん腐敗して行くという描写も、前作ほどきっちりと描かれていなかった。前作では死亡した時間が犠牲者ごとにまちまちで、それが体の腐敗具合に時系列の変化を付けていたのがユニークだったんですが、今回はそうした工夫が見られない。

 前作に濃厚に漂っていたブラック・ユーモアは姿を消して、かわりに描かれているのは、狼女と狼男のラブロマンス。前作の落しだねセラフィーヌを演じているのはジュリー・デルピー。旅行中に彼女に惹かれ、自分も狼男になってしまうアメリカ青年アンディに、トム・ハンクス監督作『すべてをあなたに』に主演したトム・エベレット・スコットが扮している。ジュリー・デルピーはキャリアのある中堅女優でありながら、いつも「初々しい」イメージを放ち続けることのできる女優です。今回も、小柄な体からはちきれんばかりのエネルギーを感じさせる芝居を見せてくれます。ラブシーンではかわいいおっぱいも披露しますので、男性ファンは要注目。(ま、彼女のヌードはそう珍しいものではないけどね。)

 映画の序盤にある、エッフェル塔から飛び降りる場面はすごい迫力だった。しかも、オチまでついてユーモラス。ここで観客をぐいと引き付けてしまうから、あとは多少物語がギクシャクしてもついて行ける。今回の映画には、狼男を増やして人間界を支配しようとする勢力と、それに対抗するヒロインの戦いが描かれていますが、この処理があまりうまくいかず、物語がスムーズに流れなくなっています。物語には「悪い狼男たち」と「よい狼女」が登場しますが、それに巻き込まれた主人公は「狼男になりたくない!」という、両者の対立とはまったく別の動機から物語に参加している。これでは物語がうまく回転して行かないのも当然でしょう。

 途中に何ヶ所か面白い場面もあるし、全体通してもそこそこ面白いというレベルはキープしているのですが、「こりゃすげ〜」という決定打に欠ける映画です。序盤のエッフェル塔に匹敵するスペクタクルが、終盤にも用意されていればバランスがよくなったんでしょうが……。


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