時をかける少女

1997/09/04 シネカノン試写室
かつて自分の製作した傑作映画を今度は監督としてリメイク。
映画界に復帰した角川春樹の意気込みは買う。by K. Hattori



 昭和58年に公開された映画『時をかける少女』は、筒井康隆の原作を映画化した作品であると同時に、原田知世のデビュー作として、また、大林宣彦監督の尾道三部作の1編として映画ファンに記憶されている作品だ。一種のカルトムービーといってもいいだろう。同じ原作はテレビでも何度か映像化されているが、大林監督の映画版に勝るものは未だない。これは大林監督のナイーブな感性と、原田知世の初々しさと、尾道というロケーションが結びついてできた、奇跡のような作品なのだ。それをリメイクするとは神をおそれぬ所業と言うしかないが、製作・監督があの角川春樹と聞けば「なるほど、そう来たか」と思う人も多いはず。僕もそう思った。

 製作・監督・脚本を担当した前作『REX/恐竜物語』から6年。角川春樹が映画の世界に戻ってきたことを、少なくとも現場のレベルでは歓迎しているのであろうことが、この映画からはうかがえます。野村宏伸、榎木孝明など、かつて角川監督の映画に主演したことのある俳優たちがゲスト出演しています。大林版『時をかける少女』のテーマ曲を歌った松任谷由美が、映画のために2曲を書き下ろしています。倍賞美津子、伊武雅刀、久我美子、渡瀬恒彦など、ベテラン俳優たちの出演が映画に安定感を与えています。

 僕は『REX』を観たときボロクソにこきおろしたんですが、角川春樹は近年の日本映画には珍しい「顔の見えるプロデューサー」だったので、このまま映画界から足を洗ってしまうのはもったいないと思ってました。監督業に復帰する云々は別にして、映画ファンとしては彼の「映画界復帰」を喜びたいと思います。

 正直言って、映画のできはあまりよくないと思います。物語がSFとしての枠組みから脱しきれず、少年と少女の一途で純粋な恋の物語としては、雑音の多い映画になっている。大林版には、登場人物たちの気持ちが物語の枠組みを乗り越えていくような、有無を言わさぬパワーがあったんですが、今回のリメイク版はその点でやや力不足だったかもしれません。端正に作りすぎて、破綻がないのが物足りないのです。そもそも恋愛というのは、自分の周りにあるいろんな枠組みを壊して行くパワーがあるものだと思うんですが、この映画ではそうした描写が欠けているように思えます。主演の中本奈奈が好演しているだけに残念。もう一歩なんだけどな……。

 主人公の和子がはじめて深町に出会う場面、公園の高台から深町を見送る場面、15年後の再会シーンなどは、この映画の中でも屈指の名場面でしょう。全編モノクロームの映像は艶があり、浮世ばなれしたファンタジーには似合ってました。派手な特撮や目まぐるしいカット割りなどを使わず、正攻法で高校生の恋愛を描こうとする姿勢には好感が持てます。『REX』にあった一人よがりな所がなくなって、きちんと観客に向き合った映画を作ろうという姿勢が見えます。この姿勢を忘れずに、これからも映画を作り続けてもらいたいです。


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