シングル・ガール

1997/08/27 徳間ホール(試写会)
主演のヴィルジニー・ルドワイヤンを延々追い続けるカメラに注目。
映像の生み出す躍動感とリズム感が最高です。by K. Hattori



 主人公の少女を演じた、ヴィルジニー・ルドワイヤンの魅力と、彼女を執拗に追い掛け回すカメラの視線が交差して、疾走感のある青春映画になってます。この映画は、劇中の時間の進行と、映画の上映時間がリアルタイムに一致する仕掛けになっています。つまり、時間の省略やダブり、スローや早回しがないのです。時間を自由に切り刻める映画でこうした手法を取ることは一種の制約ですが、これが一瞬たりとも気の抜けない緊張した時間の連続を作り出しています。最近の映画では、ジョニー・デップ主演の『ニック・オブ・タイム』が、劇中時間と上映時間のリアルタイム一致を試みて、サスペンス描写を盛り上げていました。この手法は、映画を作る側にも観る側にも、かなりの緊張感を強います。

 こうした映画では、どうしてもカメラが映画全体をワンシーンとして撮って行くことになる。気をつけてよく見ると絶妙のタイミングでカットを割っているのですが、それでもひとつひとつのカットは長めになることが多い。この映画で素晴らしいのは、カフェからホテルまで歩く主人公を追いかけて、カメラが長回しのワンカットを撮り上げる場面。ステディカムを使った手持ちカメラの映像でしょうが、通りを歩く人をかき分けながら、時には主人公の前に立ち、後ろに回り込み、通りを隔てて絶妙の距離を保ちながら、主人公の歩いて行く姿を写し続ける。カットを割っていないのに、映像にはリズム感があります。どの場面も力強く、よく考えられた状況設定とフレーミングで、印象的な「絵」を作っています。

 カフェとホテルの移動は全部で3回ぐらいありますが、この場面は全部ワンカット撮影になっている。物語はほとんどがカフェの内部やホテルの内部で進みますから、この移動のカットは、芝居の幕間のような機能をはたしているのです。ここで観客側の気分も少し変わるのです。この映画で素晴らしい仕事ぶりを見せた撮影監督は、カロリーヌ・シャンプティエ。そのカメラに負けていない主演のヴィルジニー・ルドワイヤンも偉いけどね……。この映画は主演と撮影のふたりで、全体の8割ぐらいは作ってしまった感じです。これらの全体を指揮し、この映画の脚本も書いたブノワ・ジャコー監督の力量も、ひとかたならぬものだと思いました。

 どうしても映画制作の「技巧」が目につく映画ですが、物語もなかなか面白い。ボーイフレンドの子供を妊娠した少女が、産むべきか否かに悩みながら、新しい職場であるホテルのルームサービス係の仕事をする物語。すべては主人公の視点で描かれていて、ホテルの同僚や、訪れるホテルの部屋の客などのエピソードを織り込みながら、上映時間中まったく飽きさせることなく、観客の目を釘付けにします。おそらくは人生最大の不安の中で、主人公の気持ちは大きく揺れ動き、最後は彼女自身が自分の人生を選択する。カフェに呼び出されてヤキモキしていたボーイフレンドなんてお構いなし。ん〜、女の子はいざとなったら強いなぁ、と思った次第。


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