ブラッド&ワイン

1997/08/26 シネセゾン試写室
ジャック・ニコルソンとスティーブン・ドーフ主演のサスペンス映画。
共演にマイケル・ケインとジュディ・デイビス。by K. Hattori



 冒頭の鮫釣りから画面に引き込まれ、中盤まではスリル満点。各登場人物のキャラクターもよく練られていて存在感があるし、役者の芝居も堪能できる。物語は先の展開が読みにくく、観ていてワクワクします。ただし、それが最後まで持続しないのだ。それまでガッチリと組み上げてきた物語が、最後の突貫工事で台無しになってしまった。具体的に言えば、ジュディ・デイビスが事故死したあたりから、物語の様子がおかしくなる。人物の出し入れもバタバタしてくるし、語り口のテンポがあわただしくなる。なぜこうなったのかはわからないが、これは脚本よりも演出の問題のような気がする。ジャック・ニコルソンとスティーブン・ドーフの対決を盛り上げて行けばいいのに、映画がジェニファー・ロペスに肩入れしすぎて、物語が三極化してしまうのです。

 スティーブン・ドーフ&ジュディ・デイビス組と、ジャック・ニコルソン&マイケル・ケイン組の対決で物語が推移し、まずはデイビスが脱落、次いでケインが脱落して1対1の対決になる。このものすごくシンプルな対決の図式の中で、ジェニファー・ロペスはどのような位置づけなのか、いまひとつはっきりしないまま終わってしまったのが問題です。ニコルソンの愛人として登場したロペスが、ドーフからの熱烈なラブコールにどう応えるかが鍵でしょう。最後の最後まで徹底してニコルソンを愛し、守り続けたロペスが、最後の最後に彼を裏切るか否かというスリルが、この映画にはない。ロペスはニコルソンとドーフの間で、いつも揺れ動いて見える。この中途半端なゆらぎが、映画終盤で物語に不要なノイズを生むのです。ロペスは最後の最後まで、ニコルソンの陰の女でいた方がよかった。ロペスとドーフのロマンチックな場面なども、もっと乾いた雰囲気に演出しておけば、終盤の混乱は避けられたと思う。

 ジャック・ニコルソンは久しぶりに正真正銘の悪党を演じていて、観ていて清々しい気持ちさえしました。家庭を持ちながらも、それを徹底して軽蔑している冷血漢。殺しても死なない強靭な肉体の持ち主。ヘビのような目をした執念深い殺し屋。泣きながら追いすがる妻を張り倒し、何がなんでも若い愛人との旅行に出かけようとする場面は、ニコルソン演じるアレックスという男の存在に、鳥肌が立つくらいのリアリティがあった。ジュディ・デイビスがゴルフクラブで殴ったぐらいでは、到底死なないであろうと感じさせるバイタリティは、『シャイニング』のイメージがダブったのかもしれない。

 マイケル・ケインの演じた役も恐かった。粗暴で無教養なくせに、盗みに関してはプロフェッショナル。金がからむことでなら、いくらでもジェントルな態度を装える人でなし。喘息の発作がなければ、ニコルソンが貫禄負けしそうです。ニコルソンとケイン、デイビスというベテラン俳優たちに囲まれて、一歩も引かない芝居を見せたスティーブン・ドーフも偉い。こうして見ると、やっぱりジェニファー・ロペスの部分が弱いんだな……。


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