Lie lie Lie

1997/08/21 東映試写室
豊川悦司、佐藤浩市、鈴木保奈美主演のコメディ映画。
豊川悦司の詐欺師ぶりに注目。by K. Hattori



 『櫻の園』『12人の優しい日本人』などを撮ったこともある中原俊監督の新作は、中島らもの小説「永遠も半ばを過ぎて」を原作にした、男女3人の詐欺話。映画には詐欺師を主人公にした名作が多いけど、この映画もその内の1本として、観た人の記憶に残ることでしょう。豊川悦司が調子のいい三流詐欺師、佐藤浩市が寡黙な写植オペレーター、鈴木保奈美が大手出版社の編集者に扮していて、それぞれはまり役。豊川の軽さは『傷だらけの天使』を思い出させますが、彼は気取った二枚目タイプより、こうしたちょっと三枚目風の役の方が向いているのかも知れません。彼は素のキャラクターがちょっと陰気だから、こうした明るいキャラクターを演じると役に厚味が出ます。佐藤浩市は逆で、この人の持っている陽性のキャラクターが役とぶつかり合って、写植屋の波多野という人物像に説得力を持たせているのですね。

 持ち前のキャラクターと役柄を裏切っている男性二人に対して、鈴木保奈美だけはタイプキャスティングになっている。この役は3人の中でもっとも華のある役だから、変な陰影をつけてひねくり回すより、ステレオタイプでストレートな役作りでいいのかもしれません。ステレオタイプな役作りといっても、それが即「薄っぺらな人物」になってはいけない。この映画の鈴木保奈美は、自分の柄にあったキャラクターをノリよく演じて、魅力的な人物に仕上げています。可愛い女の子扱いされていることに不満を感じながらも、それを利用してのし上がって行こうという野心を見せる様子は、そのまま鈴木保奈美のイメージに重なるもの。彼女が酒屋でコップ酒をあおる場面(「駆けつけ三杯ですわ」)や、打合せ中に悪態をつく場面(「会社なんてウンコ召し上がれですわ」)は最高におかしい。

 3人の人物のそれぞれの視点から物語を立体的に描いて行く構成にしては、人物ごとにエピソードのバラツキがあるのが少し残念。三者三様の物語を併走させておいて、最後にドッと合流させて盛り上がると最高だったんだけど……。一番エピソードが厚いのは、豊川悦司扮する詐欺師の話。北海道で知り合ったキキという女のエピソードが強烈すぎて、他のふたりはちょっと対抗できない。逆上してショットガンをぶっ放すというキキのキャラクターも強烈なんですが、その用心棒に麿赤児、詐欺師仲間には上田耕一ですから、ここだけものすごく濃いメンバーが集まってます。そうかと言って、豊川のエピソードだけで物語を引っ張って行くわけではないというのが、この映画のミソでしょうか。キキや麿赤児の登場する場面は、なんだかそこだけ現実感のないファンタジーのようにも見えますが、それが最後に現実の中に再登場する様子はスリリングです。

 二転三転するプロット、気の利いた台詞回し、キャラクター重視の筋運びなど、外国映画のようなシャレた感覚の映画です。これが東映配給。最近の東映って、すごく垢抜けてきたんですね。うれしい驚きです。


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