悪名十八番

1997/08/20 銀座シネパトス2
勝新太郎と田宮二郎の最後のコンビ作となったシリーズ14弾。
田宮の出が少ない分、エピソードが薄い。by K. Hattori



 映画の冒頭にある喧嘩で、清次が刺されて大怪我。悪名コンビのひとりが入院したことで、この映画は朝吉ひとりの場面が非常に多い。このシリーズ14作目は、勝新太郎と田宮二郎が共演した最後の『悪名』。翌年に作られた14作目の『悪名一番勝負』では、ついに勝新太郎ひとりになってしまう。要するに田宮二郎がスターになって、コンビで1本の映画を撮るより、ばらばらで2本の映画を作った方がいいということでしょうね。この映画でも、作り手側が田宮二郎の扱いに困っているようなところがある。映画の終盤で再登場した清次が、腹の傷を抱えたまま大立ち回りを演じ、激痛に顔を歪めるという展開は、普通ならもう1度大掛かりな立ち回りをすれば命はないという伏線でしょう。ところが、清次は死なない。殺してしまった方が後々のシリーズ展開が楽になるとわかっていても、殺すに忍びないというジレンマ。気持ちはわかるけど、なんだかちぐはぐなんだよね。

 兄の選挙を妨害する悪党を相手に、朝吉が大暴れするという筋立てですが、ここで暴れては兄に迷惑をかけると我慢に我慢を重ねる朝吉の姿はじれったい。森光子扮する娼妓や、兄の会社の若い女事務員など、女性関係のエピソードで場を持たせようとするが、どうにもつらい。藤田まこと扮する朝吉の舎弟分も、ゲスト出演で華やかにしておきました、という雰囲気を脱しきれていない。(僕はこの藤田まことを『悪名波止場』からの流用キャラクターだと思ったのですが、後からそうではないことがわかってちょっとガッカリ。)それは森光子も同じ。女優の柄と役がうまく合っていないように感じます。

 そこに田宮二郎が登場すると、物語がパッと明るく広がってくるのだから、やはり清次のキャラクターは貴重です。コンビでのシリーズに先がないと知りつつ、ずるずると清次を生き延びさせてしまう気持ちがよくわかる。喧嘩出入りのシーンでも、朝吉の剛に対して清次の柔があるから、アクションがスピーディーになり、大きさも出てくる。不言実行型の朝吉に対し、おしゃべりな清次がいるから物語の展開にもよどみがなくなる。僕は『悪名』シリーズの魅力の過半は田宮二郎にあると思っていますから、清次が活躍する場面では拍手喝采です。

 朝吉を慕う女事務員が、悪党連中が雇った元相撲取りにレイプされてしまうエピソードは、描写が抑制されていて、しっとりとしたいい場面になってます。ただし、女にすまないと詫びる相撲取りに、朝吉が鉄拳を振るわなかったのは解せない。これも時代の限界なのかな。朝吉が女を慰める台詞が「狂犬に噛まれたと思って、早ように忘れてしまうんや」というのも物足りない。朝吉の宿に女が訪ねてきた時、抱いてやらないのも気の毒すぎる。難しい場面だけど、汚されてしまった自分自身が許せずにいる女を、優しく抱きとめることがなぜできなかったのかな。このあたりは、もっと踏み込んで行くといい話になったと思うんだけど、どうにも話が上っ面に流れておざなりな展開に終わってしまったのは残念。


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