悪の華

1997/08/12 KSS試写室
大沢樹生主演の復讐物語は、熱演がギャグに昇華している。
これが狙った笑いなら偉い。すごい才能です。by K. Hattori



 あまりに面白くて、試写室の中で始終クスクスと笑い、最後はこらえきれずに大声で笑ってしまった映画。「傑作」というより、「ケッサク」とカタカナ表記した方が雰囲気が出る作品です。プレス資料によれば、この映画はシリアスなハードボイルド作品なのだそうですが、これって本気で書いているのでしょうか。僕が観たところ、この映画はほとんど、「スチュワーデス物語」とか「少女に何が起ったか」のノリなんだよね。演技過剰で芝居が猛然と空回りしている感じといい、ここぞというところでステレオタイプな描写を的確に挿入するところといい、もう最高におかしくて笑ってしまう。物語のプロットはシンプルそのものだけど、細部はデタラメ。そのデタラメさを、芝居の熱さと約束事で次々と乗り越えて行くエネルギーは素晴らしい。

 大手芸能プロダクションの社長・花山の罠にはまり、芸能界麻薬汚染の中心人物として逮捕された主人公・津島は、服役中に恋人を花山に奪われる。刑務所を出た津島は新城と名を変え、自分の芸能プロダクションを設立。目的は花山を破滅させ、恋人を奪い返すことだ。花山プロが売り出し中のアイドルを暴漢に襲わせ、中堅男性タレントを色仕掛けで引き抜き、人気タレントの交通事故スキャンダルを作って自分の事務所に移籍させるなど、手段を選ばないやりくちで、新城は花山を追いつめて行く。はたして復讐の結末には何が待つのか……。

 「恋人を奪われた男の復讐」という物語の枠組み自体が、既にどうしようもなく古臭いし、出てくるエピソードも使い古されたようなものばかり。観ていて常に次の一手が読める展開には、物語としてのオリジナリティが希薄です。しかしながら、次の展開として想定される選択肢の中から、常に最も過剰で過激なものをチョイスするセンスは抜群。「まさかこうはしまい」と考えていることをやってくれる嬉しさ。「そこまでやるか」と考えていると、さらにその先までやってくれるエネルギー。見え見えの展開、見え見えの演出、見え見えの会話、見え見えの芝居。すべてがあからさまで、それがすごく楽しい。ここに登場している連中には、芝居に歯止めというものがない。どこまでもズンズン先に進んでいく。

 そもそもこの映画は、原サチコ演ずる主人公の元恋人が、男二人が命をかけて奪い合うような女に見えないという致命的欠点を抱えている。顔色も目付きも悪くて、口調にも品がないし、頭も悪そう。安物のホステスのようなケバケバしい服装で病院に現われ、コートの下は下着一枚。もうこの時点で、この映画の行く先は決定的になりました。花山社長役の大杉漣も、久しぶりに安っぽいオーラを発散してイイ感じ。心臓発作を起こしてソファの上に逆さまにぶら下がったあたりから、既にノリノリです。社長室で主人公と対決している最中、心臓発作を起こして絶命する場面には思わず爆笑。ここまでやってくれたら僕は満足です。すべてが終わって主人公が去って行く場面で、ハトが飛び立つのにも笑った。最高。


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