フューネラル

1997/06/02 東劇
クリストファー・ウォーケンが小さなギャング一家の長男を演じる。
末弟の死からはじまる血みどろの一夜。by K. Hattori



 タイトルの「FUNERAL」は「葬式」という意味。物語の舞台は1930年代のニューヨーク郊外。イタリア系ギャング三人兄弟の末弟が殺されたことをきっかけに、彼を殺した犯人探し、家族の絆、復讐の顛末などを、回想シーンを交えながら描いて行く。一家を束ねる長男がクリストファー・ウォーケン、血の気の多い次男がクリス・ペン、殺される末っ子がヴィンセント・ギャロ。この兄弟たちと敵対するギャングに、『バスキア』でも印象的な芝居をしていたベニチオ・デル・トロが扮している。長男の妻に扮したアナベラ・シオラ、次男の妻役イザベラ・ロッセリーニなど、女優陣も豪華な顔ぶれだ。

 登場人物たちの過去と現在、家族それぞれの思惑などを、たった一晩という時間の中に閉じ込めた脚本は見事。それを語る演出もよどみがない。台詞で説明すべき点はあっさりと台詞に任せ、絵で説明した方が強い部分は迷わず絵にするシンプルで力強い構成。俳優たちの芝居も熱がこもっているし、全体に黒をつぶしたスミっぽい画面(これって印刷用語だな)もいい感じ。

 役者のアンサンブルで見せる映画かと思わせといて、じつは役者ひとりひとりの個人プレーが白熱しているところが見もの。中でも、少女に20ドル渡して、「お前はこれで魂を売ったんだぞ!」と叫びながらセックスするクリス・ペンは恐いなぁ。頭に血がのぼって顔が真っ赤になっている様子が、画面からもはっきりと見て取れる。このワンシーンがあるから、物語の結末にも説得力があるんだよね。弟が殺された怒りと戸惑いで、内側から静かにフツフツと煮えたぎっているウォーケンも恐い。彼の場合は、額に浮き出ている血管が既に恐い。彼が弟殺しの犯人を射殺する場面は、兄弟の中でももっとも冷静に見える彼の内面に秘められた狂気を感じさせる場面。

 殺される末弟役のヴィンセント・ギャロは『アリゾナ・ドリーム』にも出演しているそうですが、僕はこの映画を観ていないのでよくわからない役者。近日公開の『パルカーヴィル』にも出演してますが、映画のチラシによれば、彼はミュージシャンであり、画家であり、映画監督であり、脚本家であり、モデルであり、俳優なのだそうな。どのみち役者としてのキャリアがそうありそうもないのに、ウォーケンやペンのようなベテラン相手に一歩も引かぬ芝居を見せるんだから大したもんです。ちょっとウディ・ハレルソンにも似てると思うけど。

 ギャング全盛時代のニューヨークで稼業をしているにしては、この映画に出てくる一家はスケールが小さい商売をしてます。それでもギャングはギャング。スケールが小さいながらも、血で血を洗う抗争を繰り返し、ファミリー内部の結束は固い。おそらく当時はこうした小さなファミリーが、アメリカ国内に無数に存在したのでしょう。彼らはこの映画に登場した一家のように、ある者は抗争で命を落とし、ある者は自滅して、人知れず歴史の中に埋もれて行った。『ゴッドファーザー』だけがアメリカのギャングではありません。


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