ラリー・フリント

1997/05/20 ソニー試写室
ポルノ雑誌「ハスラー」の経営者ラリー・フリントの伝記映画。
主人公の妻役、コートニー・ラブに注目。by K. Hattori



 ポルノ雑誌「ハスラー」を発行する、ラリー・フリント出版社の経営者ラリー・フリントの伝記映画。原題は「The People vs. Larry Flynt」。世の良識と戦い、完全な表現の自由をアメリカ最高裁に認めさせた男の半生を描いています。監督は『カッコーの巣の上で』『アマデウス』のミロシュ・フォアマン。製作はオリバー・ストーン。ストーンの映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で連続殺人鬼に扮したウディ・ハレルソンが、反逆児ラリー・フリントを演じています。

 ポルノ雑誌の表現を憲法で保障すべきか否かというセンセーショナルな題材を扱いながら、伝記映画としては非常にオーソドックスで古典的とも言える仕上がりになっていることに驚きました。実際の人物を描く場合、どうしても物語はエピソードの羅列になってしまいがち。そこで映画全体をつなぎ止める求心力として、夫婦愛や恋人との恋愛を描くのが、アメリカ映画における「伝記物」の常套手段です。例えばガーシュインの伝記映画『アメリカ交響楽』では、実際には存在しなかった恋人まで登場させて物語をまとめてます。『ラリー・フリント』でも、権力と戦い続ける主人公を支えるのは、妻の夫に対する献身的で一途な愛情です。

 加えてこの映画から読み取れるのは、「自由の国アメリカ万歳」というメッセージ。これもアメリカ人の伝記映画では頻繁に登場するテーマです。第二次大戦中に作られた『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』などが、その典型でしょう。映画『ラリー・フリント』は、こうした数多くの伝記映画の伝統を継ぐ、正統派の伝記映画なのです。脚本は『エド・ウッド』も手がけた、スコット・アレクサンダーとラリー・カラゼウスキーのコンビ。そう言えば『エド・ウッド』も正統派伝記映画でしたね。

 ウディ・ハレルソンはなかなかの熱演で、「この人って、本当は演技力のある人なんだよなぁ」ということを再確認させてくれます。いつも木偶の坊みたいな役が多いので(例『マネー・トレイン』など)、ハレルソン本人が木偶の坊に見えてしまうのですが、どうして、なかなか力を持った役者なのでしょう。でも僕はハレルソンの力んだ芝居より、直前に観た『キングピン』のハレルソンの方が好きだけどなぁ。まぁ、これは好みの問題。

 この映画ではハレルソンより、主人公の妻アリシアを演じたコートニー・ラブに注目してほしい。この人は『フィーリング・ミネソタ』のウェイトレス役、『バスキア』のビッグピンク役などで映画に出演しているのを観ているのですが、特別印象に残ったわけではなかった。今回のアリシア役は、間違いなく彼女の出世作になるでしょう。ものすごい存在感と、生々しい芝居で、しばしばハレルソンを食ってしまいます。今後の注目株です。

 わかりきったこととはいえ、ラリー・フリントとアリシアの夫婦愛には、思わずホロリとさせられる。エイズになったアリシアと会社の重役たちを握手させる場面もよかったし、アリシアの死の場面も泣けた。


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