鬼火

1997/05/15 中野武蔵野ホール
原田芳雄と片岡礼子の関係は、愛情よりもっと強くて固い結びつきだ。
片岡礼子がとにかくよい。劇場で観られてよかった。by K. Hattori



 原田芳雄の映画なんだけど、僕の目は片岡礼子に釘付けでした。『愛の新世界』以降、彼女には注目しているんだよ。今回の映画は、僕の知る限り、今までの彼女の出演作の中でもベストでしょう。何しろあの原田芳雄を相手にして、存在感でそれとタメ張ってるもんね。片岡礼子の魅力を一言で表わせば、「骨太の若手女優」といった感じでしょうか。芯の強さとか、骨っぽさというのではなくて、しっかりと地面に根を下ろしたような安定感と、どんな役を振られてもこなしてしまいそうな懐の深さを感じます。まだまだ成長過程であるところが、大器を感じさせます。今後も注目。

 片岡礼子と聞くと、ヌードを期待してしまうのは僕だけではないと思うんです。『愛の新世界』『KAMIKAZE TAXI』『GONIN2』で脱いでますからね。(『チンピラ』は脱がない。ショックだった。)今回も原田芳雄との濃厚なラブシーンがあります。彼女は濡れ場を本当に一生懸命演じているから、観客に好印象を与えるし、あまりいやらしくならないんですよね。遠慮してペトペトやっていると、こういう場面はかえって隠微になります。

 ちなみに彼女は、テレビ画面ではあまり魅力を発揮できませんね。先日NHKのテレビ新銀河にレギュラーで出ていたときも、映画に比べると精細がありませんでした。ビデオの平板な映像では、彼女の顔立ちがのっぺりしてしまうんだよね。陰影の濃い、シャープなフィルムの上でこそ、彼女の魅力や個性がは引き立つのです。映画女優です。CMにでも出演しない限り、映画だけではタレントの知名度が上がりません。片岡礼子の名を、まだほとんどの人が知らないのは残念です。

 映画の話に戻しましょう。と言っても、片岡礼子の話です。主人公を演じた原田芳雄と、高級クラブのピアニスト片岡礼子の関係が、この映画を他のヤクザ映画と違うものにしています。ヤクザ映画に出てくる女は、ものすごくステレオタイプな描かれ方をされがちなのですが、この映画の片岡礼子は、主人公と同等かそれ以上に複雑な人物像として描かれている。原田と片岡の関係は、単に惚れたはれたの関係じゃない。愛情と呼ぶにはあまりにもぎこちなくいびつで、それだけに強く結びついている関係です。二人は互いの足りないところを埋め合うように、強く強く互いを必要としている。まったく違う人生を歩み、まったく違う心の傷や寂しさを抱えた歳の離れた男女が、共に暮らすことで得られた心の平安のようなものが、この映画からはびりびり伝わってきます。

 二人が学校に忍び込んでピアノを弾いたり、プールで泳ぐシーンの透明感と緊張感。美しい風景でありながら、他の誰かが触ればすぐにでも壊れてしまいそうな幸福を実感できる名場面です。片岡が実家に電話する場面は、じつに切ない。前科者の人殺しと固く結びつきながら、その男との関係を単純な言葉に置き換えられない苦しさが、彼女に受話器を置かせてしまったのかもしれません。余韻の残るラストシーンも忘れられません。


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