傷だらけの天使

1997/04/30 松竹セントラル2
物語はともかく豊川悦司と真木蔵人の主役コンビが最高にいい。
この映画はぜひテレビシリーズにしてほしい。by K. Hattori



 豊川悦司と真木蔵人のコンビがいい。今までトヨエツ人気に釈然としなかった僕ですが、この映画の豊川悦司はいいよ。『八つ墓村』が駄目だった彼の金田一耕助はシリーズ化してほしくないけど、この『傷だらけの天使』はぜひぜひシリーズにしてほしい。できれば同じスタッフとキャストで、テレビシリーズを1クールばかりやってくれないかなぁ。そしたら僕は毎週見るよ。

 とにかく僕は、豊川・真木のコンビにまた会いたいんですよ。テレビにするとしたら、怪しくて素敵な宇崎竜童はレギュラーにして、井上堯之バンドの音楽もよかったからそのまま。三浦友和・杉本哲太・余貴美子・菅原文太クラスの豪華なゲストは望むべくもないけど、原田知代は特別に毎回1シーンにだけは登場してほしい。あのラストから次につなぐのは無理じゃないよ。だって真木の最後の台詞は「さようなら」だったもんね。きっと彼は生きている。いつかきっとまた会えるはず。

 僕は豊川悦司の気取って格好つけている風に見えるところが嫌いだったんですけど、この映画で彼が演じているのは、気取って格好つけているくせに、てんで意気地がないお人好しの馬鹿な男です。都会派ぶってるくせに、じつは田舎者のコンプレックス丸出しというのもいい。従来の豊川悦司像を踏まえながら、それを見事にひっくり返したキャラクターに、彼が見事にはまっています。女を口説く時は調子がいいけど、一緒にのみに行けば正体なく酔っ払い、いざ女に迫られると尻込みしてしまうのも気に入った。豊川と真木のコンビが、ラストでちょっとホモチックになるのも、映画全体の甘さという意味で許します。話はそんなに面白いとは思えませんでしたが、キャラクターの魅力がそれを補って余りあります。

 真木蔵人は『あの夏、いちばん静かな海』の後、プロサーファーを目指して芸能界を一時引退していたように記憶しますが、こんな素敵な映画で再会できたのは嬉しい。豊川悦司とのコンビはボケとツッコミの漫才みたいですが、どっちがボケてどっちがツッコんでいるんだかわからなくなるぐらいテンポのいい掛け合いに、くらくらします。ボンヤリしているように見えて、結構辛辣なことをズケズケと言うんだよね。

 キャラクターのわりには物語の線が貧弱で、本来泣かせどころになる部分で泣けないという欠点はある。子役があまり生き生きしていない。杉本哲太と余貴美子のエピソードに、子供を手放す親の苦しさが見えない。原田知代の話にも身につまされる感じがしない。別れの場面で感動が盛り上がらない。これは映画が主役二人のキャラクターに振り回されてしまった結果だと好意的な解釈をすることもできるが、じつは阪本順治監督の演出傾向でもある。この人は、いざとなると役者に頼っちゃうんだよね。菅原文太の登場場面などは、それが顕著。

 ま、そんなことはこの映画にとって小さな傷です。僕はこの映画を大いに気に入った。トヨエツ人気のせいか映画館が混んでいたのを見て、僕は何となく幸せだった。


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