新世紀エヴァンゲリオン劇場版
シト新生

1997/03/27 松竹セントラル1
ひさびさに一般人まで話題にしている噂のアニメ映画を観に行った。
未完成だということを除けば、僕は満足でしたよ。by K. Hattori



 テレビ版を見ていないにも関わらず、行ってきました噂のエヴァ! 事前に「意味不明」「わけわからん」「史上最低」「あんなもの映画じゃない」など散々な酷評を耳にしていたのですが、予備知識なしに映画を観た僕の感想は「けっこう面白いじゃん」でした。テレビ放映で物語に収拾がつけられず、改めてテレビの総集編と結末部分を劇場公開するスタイルは、昭和57年の『伝説巨人イデオン/接触編・発動編』という先例がありますよね。(ああ『イデオン』も15年前か……。)今回の映画もそれに倣って、テレビ版総集編の「DEATH」と新作「REBIRTH」の二部構成になってます。残念なのは制作の遅れが響いて、新作部分が中途半端な形で尻切れとんぼになっていること。物語の結末まで描いた本当の完結編は、今年の夏に公開されるとか。期待しよう。

 映画としては、評判が散々な「DEATH」の方が面白かった。物語の筋を追うことを完全に放棄し、背景や人物たちの関係を紹介することも半ばあきらめ、ひたすら人物たちの「性格」を紹介することに徹しています。予備知識なしに観ても、シンジは優柔不断の女々しい性格で、その背景に父親との確執があること、男勝りの性格で人一倍負けず嫌いなアスカがはらんでいるもろさなどは伝わってきます。他の人物も同じように、大まかなキャラクターの傾向というものはつかめるようになっている。

 そういう意味では、この総集編はまずまずその機能を果たしていると考えていい。めまぐるしく時間を前後させる構成や、ひとつのエピソードをバラバラに配置する作りも、説明を省いて性格だけを伝えるためには有効だったと思う。たぶん時間軸に沿って頭から説明して行くと、拾わなければいけないエピソードが増えて、この時間では収まらなかったでしょう。

 「DEATH」の幕開けからしばらくは、ひとつひとつのカットが短く切り刻まれていて目が回りそう。頻繁に挿入される字幕は読む時間がなくて、まったく字幕としての機能を果たしていないんだけど、昔の無声映画同様、映画に一定のリズムやテンポを生み出してます。これに慣れてしまうと、「REBERTH」は間延びして見える。ただし、登場人物たちが体育館にそろってカノンを演奏するという仕掛けは余計だったんじゃないだろうか。ここだけ時間が順送りになっているとか、ひとつひとつのカットを長めに持たせるなど、他の部分との異化効果を出そうとする狙いが見え見えで、かえって白けるよ。

 この作品が若者に受けている理由も、何となくわかるような気がした。登場人物は皆それぞれに悩みを抱えているのだが、この映画の中で「悩み」は克服すべきものとしては描かれていない。古典的な教養小説型のドラマでは、主人公は悩みや迷いを「弱さ」と捉え、それを克服することで成長していったものです。人類補完計画ってのも、人間の完成を求める点で教養小説的。でも主人公たちはそうしない。人間が弱さや不完全さを内包しながら、それと共存しようと考るところは新しいね。


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