マイケル・コリンズ

1997/03/27 銀座シネパトス2
アイルランドを英国からの独立に導いた男マイケル・コリンズの生涯を、
アイルランド出身のニール・ジョーダンが映画化。by K. Hattori



 長くイギリスの植民地支配に苦しんだアイルランドに、独立の道を切り開いた男、マイケル・コリンズの伝記映画です。脚本・監督は、自身もアイルランド出身のニール・ジョーダン。『クライング・ゲーム』の脚本でオスカーを受賞したこともあるジョーダン監督は、31歳という若さで祖国の真の独立を見ることなく散った、マイケル・コリンズという巨人の生涯を、思い入れたっぷりに描いています。主演は『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソン。共演はエイダン・クイン、スティーブン・レイ、アラン・リックマンといった、地味目の芸達者たち。ここにジュリア・ロバーツがヒロインとして花を添え、重厚な歴史劇にラブ・ロマンスの要素を加えています。このキャスティングはうまい!

 脚本がじつによくできていて、主人公たちがゲリラ戦やテロリズムに走る必然性がきちんと描かれています。監督のジョーダンからすれば、コリンズは祖国の英雄。当然脚本は彼に対する共感と感情移入に満ちているのですが、この映画はマイケル・コリンズという人物を単純な正義の味方や英雄として偶像視することなく、等身大の悩める人間として描いている。

 止むに止まれぬこととはいえ、彼の手が鮮血に染まって行く様子を、映画は詳細に描写します。やがてその手が敵の血ではなく、かつての仲間たちの血で染まる様子までこと細かく描きつくす。映画の終盤、彼がかつての仲間たちと戦わねばならなくなるくだりは、この映画の中でもっとも残酷で凄惨な場面でしょう。この内戦状態が凄惨に描かれているからこそ、コリンズの「もう引退したい」という言葉には重みがある。そして、彼を引退させない周囲の事情や状況というものも、観客の胸にズシリと重く響いてくるのです。

 人物の配置や造形もすっきりシンプルにまとめた。独立を目指して戦いながら、いつしかその形を巡って国論を二分し、同じ民族同士で殺し合いをはじめるアイルランド人たち。映画は両者の立場を、条約をまとめ上げた主人公コリンズと、アラン・リックマン演ずる条約反対派のデフに集約させている。親友のハリーを反対派に回して、かつての仲間同士で戦わねばならない苦悩を強調するのもうまい。政治のドロドロした部分は、議会の場面で短く、しかし印象的に描くにとどめたのも上品なまとめかた。コリンズとハリーの決別の間にジュリア・ロバーツ扮するキティを配置して、男二人の友情と別れをロマンチックに描くセンスも抜群です。

 ゲリラ戦とテロリズムの天才だったコリンズは、巨大な破壊活動を指揮し、暴力の効果と必要性を知り尽くしていながら、自らはその力に酔うことがなかった。それがコリンズの偉大さなのかもしれません。彼はテロリズムの衝動に取り付かれた少年たちが放った銃弾によって、あっけなく世を去ってしまいます。コリンズを撃った少年は、じつに晴れ晴れとした表情を見せる。そこには暴力が生み出す陶酔感と狂気が集約されています。


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