夏時間の大人たち

1997/03/27 シネ・ラ・セット
売れっ子CMディレクター中島哲也の長編映画デビュー作。
新人監督の作にして、早々に枯れている。by K. Hattori



 CMディレクターとして数々の賞を受けている中島哲也の、劇場用長編映画デビュー作。短編としては、昭和63年にオムニバス映画『バカヤロー! 私、怒ってます』の中の1エピソードを担当しています。(なんだか「昭和」って書くと大昔みたいに感じますね。1988年ですから今から9年前です。)僕はこの映画を観た記憶があるんですが、詳細は忘れてしまってます。当時は今みたいに帳面をつけてなかったもんですからね……。

 中島監督の昨年のCMの仕事としては、「フジテレビがいるよ」のキャンペーン、「川藤出さんかい!」のモルツ、若い女性に見える猫をひろうキャットフード「キャラット」、芦田伸介が結婚式のスピーチをする「ヘーベルハウス」、卒業旅行と夫婦旅行を扱ったJR「春の旅」などがあります(参考資料:TCC広告年鑑)。最近では、永瀬正敏主演のJ-PHONE、歌の歌詞を実演してみせる「フジカラー・写るんです」などが彼の演出によるもの。売れっ子です。才人です。映画館では本編の前にこれらのCMも上映され、さながら中島哲也作品集のようになってます。

 で、問題の映画『夏時間の大人たち』なんですが、僕はまずまず面白いと思いました。ただし、ドラマとしては弱いと思う。CMで30秒のドラマを見せてくれる人ですから、ひとつひとつのシーンはテンポもあるし、ショットも力強い。ただこの映画では、それが連なって大きなドラマにはなって行かない。エピソードひとつひとつで、常に次の一手が読めてしまって、お話としては意外性に乏しい。物語を真っ直ぐ引っ張っておいて、最後のところでチョイとずらす手法は、あまり繰り返すと新鮮味がなくなりますね。

 小さなエピソードの部分では物語をひねろうと工夫しているようなんですが、全体を通して眺めると物語は予定調和で面白くない。喜劇としてはニヤニヤ笑いに止まり、クスリともウフとも笑えない映画になってます。ニヤニヤ笑いにも毒がないしなぁ……。作りに破綻がないし、上手いとは思いますが、でもそれはえらく上品な薄味で、満腹感の味わえない映画です。

 同じようにCM界から映画に進出した監督としては、市川準監督がいますが、市川監督はまだ「ドラマを作ろう」としてます。デビュー作『BU・SU』からその片鱗は見えました。中島監督が今後映画の世界にどの程度関わって行くつもりなのかは知りませんが、新人監督のデビュー作として、『夏時間の大人たち』という映画は地味だと思いました。今後の方向性がまだ定まってない感じ。CMディレクターの余技としては面白いけどね。

 子供が主人公の映画だけど、タイトルは「大人たち」。監督はきっと子供があまり好きじゃないんでしょうね。子供の描写にあまり精彩がありません。主人公の少年役が「岩下の新しょうが」の日高圭智だということもあるけど、それだけが原因じゃないでしょう。教室の風景などでも、教師ら大人たちの方が颯爽としてますもん。


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