ダンテズ・ピーク

1997/03/20 シャンゼリゼ
火山噴火で小さな町が壊滅する様子を緻密に描いた特撮映画。
何よりも映像の迫力に度肝を抜かれます。by K. Hattori



 主演がピアーズ・ブロスナンとリンダ・ハミルトンの災害パニック映画と聞いて、「これは間違いなくB級映画だろう」と予想するのは当然ですが、映画はふたを開けてみるまでわからない。中身は第一級の娯楽作品です。まぁこの内容なら、主演が誰であろうと構わないとも思いますけどね。ヤン・デボンの竜巻映画『ツイスター』がそうであったように、この映画でも主役は特撮技術を駆使して作り上げた自然災害のリアリティーにあります。地震国日本の国民としては、この映画に描かれているエピソードはどれも他人事ではありませんよ。

 映画の構成としては、スピルバーグの出世作『ジョーズ』を連想させます。火山噴火に対して警告を与えようとする学者と、企業誘致を目前に控えた町議会が対立するくだりは、『ジョーズ』で海水浴場を遊泳禁止にするか否かという政治的駆け引きを思い出させるのです。『ジョーズ』のテーマも「自然界から襲ってきた巨大な暴力に人間が立ち向かう」というものでしたが、『ダンテズ・ピーク』で猛威を振るうのは火山です。いわば巨大なサメのあごの中に町全体がすっぽりと飲み込まれているようなもので、被害は海水浴場のサメ騒ぎの比ではありません。『ジョーズ』では死闘の末サメを撃退しますが、火山の猛威の前に人はなすすべもなく、ただ逃げ回るしかないのです。

 噴火前の前兆現象、温泉や地下水の異常、身体に感じない群発地震などは、日本人には馴染みのものばかり。一面に雪のように降り積もる火山灰、噴火した火山から一気に駆け下りてくる火砕流の猛威なども、雲仙普賢岳の噴火で日本人なら知らぬ者はない現象です。それだけにこの映画の科学描写が、ある面でとてもリアルに作られており、別の面で思い切り御都合主義的に作られていることもよくわかってしまう。しかし御都合主義的な部分は、多くの面で物語の進行に必要な「嘘」に結びついていますから、このあたりはある程度目をつぶってあげる必要はあるでしょう。それよりも、ミニチュアや大規模なセット、CGなどを使って、自然災害をここまで再現したスタッフの仕事に対して拍手を送りたい。

 物語はきわめて単純で、「火山が噴火したから逃げる」というだけのもの。そこにブロスナン扮する学者とハミルトン扮する市長のロマンスや、家族の救出劇などがからまりあう。「ブロスナン=学者」というと、つい先日観た『マーズ・アタック!』を思い出してしまって、つい笑ってしまいました。今回の役もよく考えると、彼は学者として何も役に立つことをしていないんだよね。集会場で逃げ惑う人たちに向かって「押さないでください」と怒鳴ってたくらい。彼がハミルトンと恋に落ちるくだりも、なんだか安易だったなぁ。

 これだけの大惨事が起こりながら、ほとんど死人のエピソードが出てこないのは甘いかとも思いましたが、最後に廃虚となったダンテズ・ピークの町を見下ろすカットを入れることで、エンディングを品よくまとめました。


ホームページ
ホームページへ