リスボン特急

1997/03/13 ACT-SEIGEI THEATER
列車襲撃場面はよく考えられているけど、いかんせん特撮がチャチ。
アラン・ドロンとカトリーヌ・ドヌーブの影が薄い。by K. Hattori



 最初の銀行強盗の場面は面白かったんだけど、タイトルにもなっているリスボン特急を舞台にした麻薬の運び屋襲撃のくだりは、今の目からみるとちょっと見劣りする。ヘリコプターから列車の屋根伝いに車内に進入するというのがミソなんですが、ヘリも列車も模型だということがみえみえで少し白けるのです。僕は思わずヒッチコックの『バルカン超特急』を思い出してしまいました。『暴走特急』や『ミッション:インポッシブル』など、最近ハリウッド製の列車アクションが続いていたときだけに、この落差はいかんともし難いものがある。

 列車内に入ってしまってからは、トイレでの着替えや個室への侵入方法など、いろいろ考えられていて面白かった。特に巻尺とチョークで個室のドアに印をつけ、強力な磁石で外からチェーンロックを外してしまう場面にはびっくりしました。この場面だけでも、襲撃犯たちの用意周到なプロフェッショナルぶりが、十分に表現されてます。でもこうした一連の場面の前後にあるヘリとの連携シーンがいかにも作り物めいているので、全体が嘘っぽく見えてしまうんだよね。この映画が作られた当時の観客は、こんな素朴な特撮でも満足したのだろうか。

 列車を襲うシーンが余りにも鮮やかなので、最初の銀行強盗でのミスが腑におちない。物語の流れからして最初に銀行強盗を持ってくる理由は分かるのだが、構成としては最初に鮮やかな成功の手口を見せ、その後に小さな失敗から犯人たちが追いつめられて行った方がよかったのではないだろうか。最初の小さなつまずきが破滅を招くという意味ではこれでもいいんだろうけど、列車襲撃とのバランスが悪いような気がしました。

 この映画はあちこちに歯切れの悪さが残る。アラン・ドロン演じる刑事とカトリーヌ・ドヌーブの関係があるから、ドロンがドヌーブを逃がす幕切れも不自然ではない。しかしこの幕切れは、観客にとっては少々気持ちが悪いのです。ドロン扮する刑事がどれだけ知っているかは疑問だけど、少なくとも観客は、彼女が病院でギャングのひとりを殺していることを知っている。ドヌーブが注射器を使って、傷ついた仲間の腕の血管に空気を注入するシーンの恐いこと。この時のドヌーブの冷たい表情が、僕にはすごく残忍に見えた。それだけに、彼女は何らかの報いを受けることなく逃走するのは解せない。

 本当のことを話しているのに、アラン・ドロンに嘘吐き呼ばわりされる娼婦は可哀相でした。あの後、何らかの落とし前がつくのかと思ったら、それもないんだよね。こうしたひとつひとつが、どうにもやりきれない後味の悪さを生んでいるのだと思います。

 犯人グループや刑事たちの私生活がほとんど描かれていないため、追いつめられて自殺してしまう犯人のひとりだけがやけに哀れです。無味乾燥なハードボイルドタッチの中で、このエピソードだけがへんにウェットで、観ているこちらの同情を誘ってしまうのです。いいエピソードだとは思うけど、バランスは悪いと思う。


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