ジョージア

1997/01/22 銀座シネパトス1
ジェニファー・ジェイソン・リーの体当たりの芝居が感動的。
歌手姉妹の愛情と確執を描くドラマだ。by K. Hattori



 不器用に生きる主人公の姿が、痛ましくて、いとおしくて、思わず幾度か涙がこぼれ出た映画。主演はジェニファー・ジェイソン・リー。彼女はすごい熱演。この映画では自らプロデューサーも兼ねるなど、力が入っている。まさに体当たりの芝居で、最後は頭もクリクリの丸坊主になってしまうのはすごい。そんじょそこらの半端な女優じゃ真似できないよなぁ。

 カントリー・ウェスタンの人気歌手として成功している姉ジョージアと、売れないロック歌手の妹セイディ。共に音楽の道に進みながら、ひとりは成功し、ひとりはいつまでも芽が出ない。そんな姉妹の愛情と確執の物語だ。映画のタイトルは『ジョージア』だけど、主人公は妹セイディの方。セイディは売れない歌手だけど、姉の境遇をうらやんだり妬んだりしない。姉の成功を、我が事のように誇りに思っている。

 姉ジョージアを演じるのは、実際に歌手でもあるメア・ウイニンガム。何度か登場するステージシーンで見せる貫禄は、さすがプロの歌手ですね。セイディが彼女の歌う「Hard Time」を満員の客席の中で聞いて、感動して涙ぐむシーンが映画の冒頭にある。歌い終わった姉に、他の客たちと一緒になって熱狂的に拍手する様子や、コンサートの後で照れくさそうに楽屋を訪ねるシーンから、彼女が本当に姉と彼女の音楽を愛しているのだということが伝わってくるのです。

 でもこの想いの半分は一方通行です。姉の方は、妹の生き方や音楽が嫌いなんです。姉として、家族の一員として妹に向ける愛情は本物なんだけど、ひとりの音楽家として、妹の音楽は許容できない。自分も同じ分野で活動するアーティストだから、こうした面では妥協できないのです。優れた才能には、こういうちょっと残酷なところがあるんですね。

 ジョージアの夫は元ミュージシャンだったんだけど、今ではバンドを解散して、ほとんど主夫みたいな生活をしている。この人もジョージアと衝突して、彼女の才能に負けてしまった人なんでしょう。彼はそれによって、家庭の平和を得た。だからこそ彼は、ジョージアと衝突するセイディを応援してしまうのかもしれません。もちろん、家族だからでもあるんだけど。

 この映画で一番残酷な場面は、思いがけず大きなステージに立つことになったセイディの歌を、横からジョージアが邪魔してしまう場面です。言葉を叩きつけるように歌うセイディの音楽を、ジョージアはいかにも不快そうな顔で聴いている。やがてジョージアは、セイディの音楽を自分の色に染めようとするのです。この傲慢さに、セイディはちゃんと気がついている。

 くびになったドラマーをいたわる場面や、セイディの結婚とその破綻の描写など、胸に迫るエピソードも多い。なにしろすごく生々しいのです。売れない歌手という設定だけど、ジェイソン・リーの歌も結構いいぞ。コステロの「ALMOST BLUE」なんて、なかなか聴かせます。


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