恋と花火と観覧車

1997/01/16 千代田区公会堂
(松竹シネクラブ試写会)
男やもめの長塚京三が取引先会社のOL松嶋菜々子と恋をする。
アイディアも話も面白いが取材が不足気味。by K. Hattori



 「恋は遠い日の花火ではない。」というウイスキーのCFから触発されて作られた、長塚京三主演の大人の恋愛映画。CFのコンセプトが核になっているのかと思ったら、さにあらず。この映画に大きな影響を与えているのは、むしろ映画『Shall we ダンス?』でしょう。

 存在はよく知られているのに、実態がなかなか伝わってこない駅前ダンス教室の内幕に替り、『恋と花火と観覧車』で描かれるテーマは結婚情報サービスです。妻に先立たれ、男手ひとつで娘を大学生にまで育てた主人公が、娘のはからいでサービスに入会し、そのパーティーで取引先の若いOLに出会う。映画は父娘ほども年の離れた二人を中心に、『Shall we ダンス?』同様、同じ会に所属する男女会員たちの様々な人生模様を描きます。ちなみに音楽を担当するのは、『Shall we ダンス?』でも音楽担当だった周防義和。

 映画のアイディアは面白いと思うし、人物の配置の仕方、物語の進め方もパタン通りとはいえ悪くない。ただ映画を観ていて感じたのは、脚本の取材不足。物語がキーポイントに差し掛かると、いつも意外性のないおざなりな展開に陥りがちなのです。特に映画の中盤以降はそれが顕著。結婚情報サービスに集う男女をもっと丹念に取材すれば、物語にもう少しユニークなディテールが添えられると思うんです。

 そもそも彼らはなぜ結婚しなければならないのか。普通の見合いではなく、結婚情報サービスを利用するのはなぜなのか。こうした業者の仲介を頼むことに、後ろめたさや恥ずかしさは感じないのか。そんな部分まで人物たちを掘り下げて行ければ、この映画は『Shall we ダンス?』にも負けない、普遍的なドラマになったと思う。今のままだと、とりあえず出会いの場として情報サービスを借りただけですよ。主人公の娘や会の常連男性など、周辺の人物をもう少し書き込むと、映画に奥行きが出たでしょうに。もったいないなぁ。

 恋愛ドラマとして見ると、松嶋菜々子演ずるヒロインのキャラクターがちょっと弱いと思う。長塚京三の人物像や気持ちの揺れはきちんと描かれているのに、松嶋のキャラクターは言葉で説明があるだけです。これでは二人の恋の成就に僕は納得できない。主人公の格好よさ、大人の男の魅力ってのは納得できるし、彼に好意を持つ女性の気持ちも理解できる。男からみても、長塚演ずる主人公は格好いいですもん。でも、好意から恋への道のりを描くのが、恋愛ドラマなんじゃないのかな。この映画はそのあたりが性急すぎて物語に厚味がない。

 映画全体に言えることだけど、コントラストやカラーバランスが悪く、もやもやした場面が多いです。序盤はハイキーすぎるのが気になる。中でもタイトルにもなっている観覧車の場面は、撮影でもう少し工夫してほしい。照明の青白い光が顔に映って、主人公の顔がゾンビみたいに見えます。映画の中で一番ロマンチックでなければいけない場面なのに、これではとっても困ります。


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