荒獅子

1996/12/01 大井武蔵野館
話は単純だが、主人公親子の気持ちのすれ違いに同情。
嵐寛寿郎主演の昭和13年日活作品。by K. Hattori



 年末恒例となっている大井武蔵野館時代劇スペシャル。今年はアラカンこと嵐寛寿郎の大特集で、チャンバラにという枠に縛られることなく、戦前戦後の作品をずらりと20本。僕も時間があれば1本でも多くの映画を観ようと、特集初日の劇場に駆けつけました。12月1日は映画の日なのですが、そうしたことに関係なく、チャンバラ特集には客が入る。僕は去年の特集で、3本立てを全て立ち見したことがあります。それは避けたいので、この日は早めに劇場到着。無事座席を確保しました。昭和13年製作の日活映画3本の上映でしたが、1本目の上映が終る頃にはやはり立ち見が出ていました。やはり、早めに家を出てよかったよかった……。

 さて『荒獅子』です。戦前の日本映画の保管状態はひどく悪く、フィルムが紛失して名前だけが伝わっている作品が膨大な量に登ります。幸運にも残ったフィルムでさえ、ピカピカの濡れるような映像から、ズタボロでつぎはぎで音もボロボロという物まで当たり外れが多い。この映画はどちらかというと後者で、なんとか映画として見られる状態。観客の側でかなり努力しないと、台詞も聞き取りにくいし画面も白く退色していて見づらいことこの上もない。それでもこうした状態でフィルムが上映できるだけでも幸運なのかもしれませんが……。

 両国の芝居小屋で主人公が無頼浪人たちの狼藉を押しとどめる場面から物語が始まるが、その直後、この一件は主人公が女役者の気をひくために打ったお芝居だということが明らかにされる。勧善懲悪のヒーローを期待していた観客はずっこけこと請け合い。

 主人公は名門旗本の放蕩息子で、父の後妻である継母との折り合いが悪くて家に居着けない。父を慕い、腹違いの弟を実の弟のように可愛がるのだが、そんな彼の気持ちを義母だけは決して受け入れようとしない。飲んで帰った嵐寛が、弟の枕元からいとおしそうに寝顔を見つめている場面などは、この主人公の家族への愛情が素直に伝わって来る場面でした。しかしそんな彼を見つけた義母は、悪し様に彼をののしり、追い出してしまう。いがみ合う血のつながらない母子。その苛立ちから荒れる息子を見かねて、父は心ならずも息子を勘当する。

 町の無頼浪人の群れに入り、ヤクザとの喧嘩で一躍名を上げた主人公。幾人かの手下を抱えて親分気取りの主人公だったが、江戸市中で頻発する辻斬り強盗を検挙するため、父親が町奉行に任命されたと聞くや心を入れ替え堅気に戻る決心をする。このくだりで登場する岡っ引の親分が、なかなかいい役どころで存在感があります。

 情婦を捉えられた強盗の首魁が、復讐のために奉行の幼い息子を誘拐。弟を取り戻すため、敵の本拠地に乗り込む主人公の登場場面は、「桃太郎侍」みたいで格好いいぞ。主人公は敵を捉えた後、弟に家や家族のことを託して姿を消す。最後は義母が自らの心の狭さを詫びるのだが主人公は帰らない。誰が気の毒かって、僕は主人公の父親が一番可哀相だった。親子の情愛が胸を打つ。


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