弾丸ランナー

1996/11/23 テアトル新宿
サブの監督デビュー作はスピード感あふれる痛快アクション!!
とはいえ中身は男三人がただ走るだけ…。by K. Hattori



 オープニングから終盤まで、一気に見せてしまうスピード感あふれる痛快作なんだけど、最後のオチの部分で、ちょっと迷いが見えたような気した。物語をどこに落ち着かせればいいのか、ウロウロ逡巡しているような感じを受けたのだ。結果として、それまでのたたみかけるようなテンポが鈍って、失速気味にエンディングを迎えた感じです。これはへんな余韻など残さずに、そのまま行くところまで行ってしまった方が面白かったんじゃないかな。それが僕にはちょっと残念だったけど、それもこの映画の魅力の前には小さな傷にすぎない。だって他のところは滅法面白いんだもんね。

 綿密な銀行襲撃計画を立てていた男が、どういうわけだかシャブ中のコンビニ店員に追い掛け回され、さらにそれを、ドスを振りかざした若いヤクザが追いかける。映画はこの三人の全力疾走ぶりを延々描くのだが、彼らがなぜ走り出さねばならなかったかというエピソードが回想形式で挿入され、それぞれがまた面白い。この三人の男たちの追いかけっこに、ヤクザ出入りといかれた刑事たちのエピソードがかぶさって、物語を単調さから救っている。最後は全員が一堂に集まっての大団円。このあたりは、ちょっと芝居がかっている。

 男たちの下らない妄想がほとばしる場面が傑作。走っている最中に女性とすれ違っただけで、三人の男が三者三様にエッチな妄想をはじめる場面には大いに笑わせてもらった。頭上に太陽を受けてアスファルトの上を走り続ける男たちの息遣いが、ここぞとばかりに荒くなるのが可笑しい。妄想の原因となった女性は、そんな男たちを不思議そうな目で見送るのであった……。

 銀行襲撃に失敗し、拳銃とドスに追いかけられることになった男を演ずるのは田口トモロヲ。コンビニでバイトしているシャブ中のロッカーにDIAMOND★YUKAI。目の前で組長と兄貴分とを殺され、行くあてのないまま発作的に走り出してしまったヤクザに堤真一。彼らは走りつづけているうちに、ランナンーズハイのような恍惚状態に入ってゆく。追いかけという当初の目的が失われ、いつしか走るという行為そのものの中に喜びと充足感を持ち始める三人。先輩ヤクザの幻影に背中を押された堤が、先行する二人の横を笑いながら追い抜いてゆく場面の清々しさと爽やかさはいったいなんだ。

 主演三人は常に全力疾走。当然分けて撮っているんですが、撮影の間中ほとんど走っていたのは事実でしょう。ご苦労様です。物語の中で彼らが走った距離がどのくらいになるのかはわかりませんが、町並みの様子や風景から、観客に「ずいぶん遠くまで走ってるじゃねぇか」と思わせるあたりは上手いもんです。

 走ることに素人の彼らが、なぜあんなに走りつづけることができるのかは疑問ですが、そうした理性的・常識的な判断をぶっ飛ばしてしまうようなパワーがこの映画にはあります。走って走って走り抜いたその先で、男たちが見たものは……。映画はそのあたりがちょいと弱い。


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