ケロッグ博士

1996/10/20 ユーロスペース
コーンフレークの発明者ケロッグ博士は実在の人物。
博士の健康センターを舞台にしたコメディ。by K. Hattori



 ユーロスペース1館でしかもレイトショー公開という、いささか地味な扱いをされている映画ではありますが、監督はアラン・パーカー、出演はアンソニー・ホプキンス、ブリジット・フォンダ、マシュー・ブロデリック、ジョン・キューザック、ダナ・カービー、ララ・フリン・ボイルと超豪華な内容です。コーンフレークの発明者でもあるケロッグ博士の健康センターを舞台に、そこで繰り広げられる様々な健康療法と、そこに集う人々の姿をコミカルに、しかも皮肉たっぷりに描いています。

 何の疑問も抱くことなくケロッグ博士の健康法を実践する人々の群れの中に、マシュー・ブロデリック演ずる懐疑的な男をひとり放り込んだのは、ブロデリックを通じて映画の観客に健康センターの異常な生活を紹介するため。彼が健康センターにやってきたのは、博士の信奉者である妻にひっぱられてのことだが、彼は最初からこの狂信的とも思える健康センターの生活スタイルに馴染めない。それでも彼はだんだんにこの生活に魅力を感じはじめるのだが、その理由は多分に下半身方面の欲求によるところが大きい。ララ・フリン・ボイル演じる隣室の美女ミス・ムンツとの情事、担当になった若く美しい看護婦グレーブスに身の回りの世話をされる快楽。

 夫が両手に花のにわかハーレム状態を満喫している間に、妻の方も怪しげな医者の淫らな療法に足を突っ込んだりで忙しい。過激なまでの健康指向と禁欲生活の裏側では、それに反発するように淫らな欲求や欲望が首をもたげてくる。それは健康センターの中だけに限らず、ケロッグ博士の名前を盗用して一旗あげようと、健康センターのあるバトルクリークの町は怪しげな詐欺師のような人物であふれかえっている。その中心に、他ならぬケロッグ博士の息子までが含まれているありさまです。肉食と飲酒を厳格に禁じている健康センターと、その正反対に分厚いステーキと酒をふるまう店の対比が何度か出てきますが、食い物に関して言えば、僕は後者の方に魅力を感じますね。ステーキの厚さが4センチはあったぞ。

 物語の筋立て自体は単純なもので、マシュー・ブロデリックとブリジット・フォンダの夫婦が互いの不信と過去の不幸を乗り越えて行く様子も、ケロッグ博士と息子の確執と和解も、ストレートに描かれていてどれも落ち着くべきところに落ち着き、展開にひねりはない。むしろ映画の主眼は、健康センターで行われている療法の内容を事細かに再現することに置かれているようだ。今世紀初頭に作れらた、機械仕掛けの大掛りな装置の数々。電気毛布療法、一歩間違えると感電死しかねない高圧電気風呂、冗談としか思えないような入浴装置、1日5回の浣腸療法。方法や道具立ての細部こそ違え、やっていることは現代のエステティックサロンなどと変わらない。

 「ブルガリア人はヨーグルトのおかげで長生きだ。グレーブス君、彼にヨーグルトを55リットル与えたまえ」「先生、そんなに食べられません」「そりゃ君、口からは入らんよ」には笑った。55リットルだぜ!


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