ノートルダムの鐘

1996/08/16 よみうりホール(試写会)
精細さとダイナミズムがバランスよく配合されたディズニーアニメ最新作は、
間違いなくディズニーアニメの最高傑作だろう。by K. Hattori


 脚本、演出、キャラクターの造形、アニメーション技術、美術、音楽、歌、吹き替えのキャスティング、どれをとっても一級品。『リトル・マーメイド』以来の新生ディズニーアニメの中では、最高傑作と言える出来栄えだろう。それは間違いない。しかし反面、この映画はディズニー映画の中では比較的早い時期に忘れられてしまう映画だという気もする。それはなぜか。この『ノートルダムの鐘』は、アニメーションの娯楽映画としては中身が高級すぎるからだ。

 音楽はアラン・メンケンとスティーブン・シュワルツ。高い格調と躍動感、緊張感みなぎる歌の数々は、時には観るものを楽しく夢のような気分にさせ、時には不気味で邪悪なキャラクターの性格を演出し、時に愛による戦いの勝利と歓喜を歌い上げる。僕はカジモドが模型の町を前に「彼女が僕に恋する夢を見よう」と歌う場面や、エスメラルダが「私はなにもいらない」と大聖堂の中で歌う場面、悪役フロローのエスメラルダへの歪んだ愛着が殺意に変貌するまでを歌い上げる場面などが印象に残った。だがこうした歌の中に、映画を観終わった観客が思わず口ずさみたくなるような親しみやすいメロディーは見当たらない。

 ディズニーアニメは、かつてミュージカル映画がたどったと同じ道をたどっているように思える。高級化し、豪華になり、制作者たちの研ぎ澄まされた感性が細部にまで行き届いた演出を見せれば見せるほど、どこかで行き詰まりを感じてしまうのだ。この映画はディズニーアニメのひとつの到達点である。『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』に比べれば、お話作りも絵作りも格段の進歩が見える。それだけに「これ以上どこをどう改善すればいいのだろうか」とも思う。この映画を見た後では、観客はもうどんな絵を見ても驚かない。ディズニーは次回作として『ファンタジア』を作るそうだが、アニメーションはその後どこに向かうのか。そんなことをつい心配してしまうほど、この映画の完成度は高い。

 この映画は英語版に加えて日本語版が同時に公開され、日本語吹き替え版は劇団四季が担当している。今回観たのは英語版だったので、トム・ハルスやデミ・ムーア、ケビン・クラインといった役者たちの声を聞くことが出来た。でも、この内容なら日本語版も観てみたい。歌からドラマへ、ドラマから歌へのつなぎがとても見事なので、日本語で歌詞の中身がしっかり聞けると感動が一段と深まるような気がする。

 なにかと物議をかもしている『ノートルダムの鐘』という邦題だが、映画の中でもちゃんとタイトルを「THE BELLS OF NOTRE DAME」と表記するディズニーの徹底ぶりには敬服する。IMDbにこの表記はないから、これって完全に日本向けのタイトルなのだろうか。

 それより「せむしは力が強い」というステレオタイプがあってこそのカジモドのキャラクターだと思うんだけど、それがどのくらい日本の観客に通じるかは疑問だ。


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