ジャイアント・ピーチ

1996/08/08 九段会館(試写会)
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に比べると平凡なデキになった、
ティム・バートンのファンタメーション第2弾。by K. Hattori


 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に引き続き、ティム・バートンがディズニーからリリースする「ファンタメーション」の第2弾。ロアルド・ダールの童話「おばけ桃の冒険」を、人形アニメとCG技術を駆使して映画化。監督はヘンリー・セリック。声優としてリチャード・ドレイファスやスーザン・サランドンが名を連ねているのも話題。日本では12月公開ですが、今回試写会で観る機会に恵まれました。

 映画の内容には正直言って少し期待はずれな部分がありました。徹頭徹尾アニメーションを見せてくれるのかと思っていたら、最初と最後は役者を使った実写映像。完全な作り物の世界を堪能した『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』と同じ物を期待していた僕としては、少しはぐらかされたような気分です。前作は美術デザインなどにもティム・バートンの趣味を感じさせましたが、今回はそうした個人の匂いがあまりしないのも不満。例によってミュージカルですが、思わず口ずさみたくなるような、印象に残る楽曲はありません。随所でCG映像を巧みに合成しているのですが、「膨大な手作業の集積」を期待している僕のような嫌らしい客に言わせれば、それは「手抜き」ってことになってしまうんだよね。

 終盤は人間と人形アニメの共演が実現するんだけど、こんなの僕にとっては全然魅力的な絵じゃない。僕はやっぱりこの映画を完全な人形アニメだけで観たかった。どうして最初と最後は実写がからむんだろうか。全部人形で処理するにしては、製作時間がなかったのかなぁ。昔ジム・ヘンソンの『ダーク・クリスタル』に感動していたら、次作が『ラビリンス/魔王の迷宮』でガッカリしたことがあるけど、今はそれと同じ気分です。

 もちろんこの映画にも観るべきところは多い。何と言っても人形アニメ部分の完成度は前作を上回っていて、動作や表情の変化もじつになめらか。あまりにも自然な人形たちの振る舞いに、それがアニメーションであることを忘れてしまいます。まるでそこに実際にそういう生物が存在するかのような、生々しいリアリティがある。ただし、それが自然であればあるほど、その背後にある熟練アニメーターたちの手作業が感じられなくなるわけで、映画を観た時の「おおお、こんなもんどうやって作ったんだ!」という驚きは後退してしまう。それに、こうして作り物の世界に観客を没入させてしまうだけの力がアニメにあるにもかかわらず、どうして実写なんて混ぜたんだよ……、とまたブツブツ言いたくもなるしね。

 序盤と終盤の実写部分も、美術や衣装・メイクなどで「おとぎ話風」の味付けをしようと心がけているらしい。でもこういう描写は、例えば『ロスト・チルドレン』のジュネ&キャロや、『バロン』のテリー・ギリアムの方が2倍も3倍も上手いんだよね。製作のティム・バートン自身、『シザー・ハンズ』という傑作ファンタジーを作った監督なんだから、こうした演出には一家言あってよさそうなんだけどなぁ。それが見えないのが不思議。


ホームページ
ホームページへ