カウチ・イン・ニューヨーク

1996/06/18 カザルス・ホール(試写会)
ジュリエット・ビノシュとウィリアム・ハート主演のラブコメディ。
アパートの交換をきっかけに恋に落ちるふたり。by K. Hattori


 仕事と生活に疲れ切ったウィリアム・ハート演ずるニューヨークの精神分析医が、パリに住むジュリエット・ビノシュと住まいを交換することになる。ハートは陰気で内向的で潔癖症。ビノシュは陽気で感情的で大雑把で大胆な性格。対照的な二人が最後に結ばれるであろうことは、映画の最初からわかっていることだけど、その課程をどうひねくり回すかがこの映画のミソ。

 ハートがパリの生活にも馴染めず、ニューヨークに戻ってきてしまうのが第一段階。心の悩みに耐えきれず助けを求めて訪れる患者を、ビノシュが断りきれなくて話を聞き始めるエピソードがこれと併走する。たまたま見かけた患者の豹変ぶりに疑念を持ったハートが自分のマンションを訪ねると、そこではビノシュが友人を秘書役に仕立てて、モグリで精神分析療法をやっている。抗議するタイミングを逃したハートは、いたずら心から患者としてビノシュの治療を受けてみることにする。

 最初の治療でビノシュとハート双方が不思議な違和感を感じ、それが「恋だ!」ということになるわけだけれど、この恋に落ちる瞬間の描き方がちょっと弱いような気がした。この部分は全体の要になる部分なんだから、もう少し演出に凝ってほしかった。カメラの切り換え方とか、音の使い方とか、芝居の内容とか、台詞やちょっとした仕草など、その後でふたりが「これは恋だ!」と言い出した時点で、観客が「そうだそうだ」と納得できる材料がほしい。ここが弱いから、このあと子供のようにはしゃぎ回るハートや、心を動かされたことに戸惑うビノシュの芝居がやや空回りしてしまう。

 話としては他愛のないものだが、ビノシュのもとに次々と患者が訪れるシーンはテンポも良くて、すんなりと見せられてしまう。患者を振り切ってパリに脱出したハートが、ビノシュに恋する男たちを相手にセラピーをする羽目になるあたりも、そこはかとなくおかしい。二人の心の揺れがどんどん増幅されて、最後はとんでもない激震になることを期待していたんだけど、残念ながらずいぶんと上品に終わってしまった。後半はビノシュとハートのすれ違いと追いかけで、スクリューボール・コメディにしてほしかったなぁ。

 エンディングにポーターの「ナイト・アンド・デイ」が演奏されることで、このお話にも何となく納得。要するにこれは、古典的なミュージカル映画にあるようなストーリーラインなんですよね。「フーム」と「イエス」で会話が進行するとか、素っ頓狂な行動をする登場人物たちとか、ミュージカルの中では生きてくると思うんだけど、残念ながらこの映画は単なるマンガになってしまっている。


ホームページ
ホームページへ