毒婦お伝と首斬り浅

1996/03/24 大井武蔵野館
自らの手で生きる道を切り開こうと戦う、お伝と仲間たち。
史実を無視して軽いエンターテイメントになった。by K. Hattori


 高橋お伝は花井お梅や阿部定と共に、かつては悪女毒婦の代表格だった人物。映画にも何度かなっていますが、3人とも元は実在の人物です。悪女だの毒婦だの言われたって、今ではあまりピンと来ませんが、封建の名残が残る時代には女が男ひとり殺しただけで大騒ぎになったのですね。特にこれらの事件の主人公たちは皆、もとが芸者だの女郎だの妾だのといった当時は身分の低い、それゆえ誰もかばう者のない女だったから、世間はあることないこと言って彼女たちを悪女や毒婦にしてしまったのでしょう。事件として見れば、SMセックスの果てに相手を殺してしまった阿部定はともかくとして、花井お梅や高橋お伝にはあまり同情の余地はないけどね。彼女たちは殺すつもりで殺してるから罪が重い。

 彼女たちにとって良いことか悪いことかは別にして、こうした事件はさまざまに脚色潤色され、やがて伝説めいてきます。実在の花井お梅と「明治一代女」のお梅は別人ですし、この映画のお伝と実際のお伝も全くの別物。この映画が実在のお伝と同じところは名前だけで、中身はぜんぜん別物もいいところです。彼女の持つ悪女・毒婦のイメージだけを借り物に、中身はありがちな「暴走する青春」を描いた映画にしてあるところがミソでしょうか。高橋お伝を巡るフォークロアの一変種でしょうね。実在のお伝が八代目首斬り浅右衛門に処刑されたのは30歳前後だったという話ですが、この映画のお伝は二十歳の小娘です。お伝を巡る人物達の中では、本物のお伝を妾にして殺されてしまう後藤吉蔵が、お伝一味を追う刑事として復活。お伝の愛人だった士族小川市太郎が、一味のリーダー格であるお伝の恋人として登場しています。

 物語はおどろおどろしく陰惨な事件を扱うのではなく、若者たちが繰り広げる強盗と警官隊との銃撃戦、その中でひとりまたひとりと倒れて行く仲間達といった、まるで西部劇調の展開を見せる。お伝の服装はタートルネックのセーターにポンチョ、移動は馬車、扱う銃はウィンチェスター風ライフル。迫り来る警官隊に向かってお伝一味が銃を連射すると、警官が軒並みバタバタと倒れるのです。

 映画は「毒婦お伝」をタイトルに戴く割には、毒婦という言葉が持つ妖艶で肉感的なイメージと無縁で、お色気路線を期待していると大いにがっかりさせられます。お伝を演じる東てる美は多情多淫なステレオタイプのお伝像とは一向に重ならず、やせっぽちで身体が硬そうで色気がないんだよね。濡れ場はほとんどないし、ヌードもおっぱいが少し出る程度でスケベな男心は満たされない。インポになった市太郎を置いてお伝が別の男とセックスする場面は従来のお伝像を踏襲した物かもしれないけど、かえってここだけ全体から浮いているぐらいでした。


ホームページ
ホームページへ