Shall we ダンス?

1996/02/14 日劇東宝
『シコふんじゃった』の周防正之が社交ダンスの華麗で妖しい世界を描く。
邦画界久しぶりのスマッシュヒットに大映もホクホク。by K. Hattori


 『ファンシイ・ダンス』で坊さんの世界を、『シコふんじゃった。』で学生相撲の世界を描いた周防正行の新作が、中年男女の集う社交ダンスの世界だと聞いた時からどれぐらいたっただろう。タイトルの『Shall we ダンス?』はロジャース&ハマースタインのミュージカル『王様と私』のナンバーからのもじりだけど、そういえばアステア&ロジャースのRKO映画にも"Shall we dance"ってのがありました。音楽がガーシュイン兄弟で、日本語タイトルは『踊らん哉』。まったく、タイトルだけでもいろいろと想像の広がる映画です。

 競技ダンスの世界を描いた映画としては、少し前に『ダンシング・ヒーロー』というオーストラリアだかどこだかの痛快な青春映画がありました。ダンス教室の教師と生徒の話なら、ライザ・ミネリの『ステッピング・アウト』ってのもあったな。どちらも面白かったけど、この『Shall we ダンス?』はもっと面白い。どこからこの映画の噂をかぎつけたのか、映画館の中はぎっしりと人が埋まり、近年の邦画にしてはまれにみる活況でした。

 シェイクスピアの引用から始まる、ちょっと気取ったオープニングもよい雰囲気。そこからポンと役所広司演ずる中年サラリーマンの通勤風景に話を持ってくるあたりも、やや強引ながらそれを感じさせない仕上げ。彼が通勤電車の車窓からふと見上げる、駅前のダンススクール。窓辺にたたずむひとりの若い女。ガチガチにできあがっていた彼の生活パターンに、ここでひとつの波風が立つ。主人公がダンススクールのある駅で列車からなかなか降りられないとか、なかなかスクールへの階段をのぼれないとか、ドアの前に立ってもまだ中に入る勇気がなかなか出ないとか、このあたりもじつに自然なんだよなぁ。

 日常からのちょっとした逸脱のつもりが、次第にダンスの魅力のとりこになる主人公。前半から中盤にかけてが、この映画一番の魅力でしょう。モダンを捨てたラテン人間の青木さんこと竹中直人の、ハイテンションなバイプレイヤーぶりも光るが、岡本喜八の失敗作『EAST MEET WEST』ではウルサイ以外の何物でもなかった彼の個性が、この映画では本当にうまく生かされている。特に背広を着た彼の卑屈な小心ぶりがよい。駅の近くのホテル街で女の子に逃げられてしまう場面や、会社のトイレで死んだふりをする場面なんかは最高でした。

 僕が一番好きなのは、ダンスホールで主人公とたまこ先生が踊る場面と、ラストのさよならパーティーで主人公が背広のままあこがれの若いダンス教師と踊る場面。前者は心温まる名場面だし、後者はぎりぎりのリアリティーを保った夢のような振付に酔いました。この群舞は『フィッシャー・キング』の駅の場面に匹敵するスペクタクルです。


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