9か月

1996/01/04 日劇プラザ
主人公カップルよりトム・アーノルドとジョーン・キューザックが面白い。
笑いの焦点が不明確な妊娠ドタバタコメディ。by K. Hattoriby K. Hattori


 この映画って、どういうマーケット戦略で作られているんでしょうか。若いカップル向けにしては内容が生々しすぎるし、結婚したカップル向けには生ぬるい内容。全体に中途半端でただドタバタと騒がしいだけの映画だ。

 『フォー・ウェディング』でコメディー路線に一歩踏み入れたヒュー・グラントが、私生活のドタバタで一気にコメディアンぶりを発揮し、その後撮った完全なコメディ映画。それがこの『9か月』だ。この映画には僕の好きな俳優たちが大勢出ているので、それが楽しみな映画でもあった。僕にとってヒュー・グラントなんて優男はどうでもいい。むしろ友人役のジェフ・ゴールドブラム、その姉夫婦を演じたジョーン・キューザックとトム・アーノルド、怪しい産婦人科医ロビン・ウィリアムズなどに注目した。これだけの役者が揃いながら、それを使いこなせない監督はアホだ。キャスティングを巡るギャグとしては、グラントがゴールドブラムに「イモムシみたいな子供の夢を見る」と告白するところが多少面白い程度で、ゴールドブラムはこの1行の台詞のためだけに登場したようなもの。ご存知の通りゴールドブラムは『ザ・フライ』の蝿男で、映画にはイモムシ状の赤ん坊も登場しております。

 トム・アーノルドは『トゥルーライズ』でシュワルツェネッガーの同僚スパイを演じた役者だが、大スターであるシュワちゃん相手に一歩も引かぬ存在感を見せ注目を集めた人。僕にとっても忘れがたい俳優だっただけに、この登場は嬉しかった。でも、今回アーノルドはまるっきりただの脇役で精彩に欠ける。ジョーン・キューザックも、『コリーナ・コリーナ』にちょい役で登場したときの方が面白かったぞ。これだけ出ずっぱりなのに、残念なことだ。

 この映画の一番の収穫は、ロビン・ウィリアムズのコメディアンぶりが十二分に堪能できることにある。同じクリス・コロンバス監督の『ミセス・ダウト』が消化不良気味だっただけに、この八面六臂の活躍は大きな喜び。バーバルギャグの類は例によって字幕じゃその魅力が半分も伝わらないのだが、彼の一挙手一投足の仕草がどうにもたまらなく面白く、劇場内は爆笑の渦に包まれる。ロシア訛りの英語というギャグも、なんだかよくわからないんだけどそれ風でおかしい。こうしたウィリアムズの芸も、最後の分娩室のドタバタは、筋書き通りであまり面白くない。ひょっとしたら最初の診察室の場面は、半分ぐらい彼のアドリブなのかもしれません。

 映画館の前の方で観たせいかもしれないけど、顔のアップやバストショットの多い画面構成はまるっきりビデオ向き。長時間劇場で観るには単調な絵作りです。


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