鞍馬天狗
御用盗異変

1995/12/10 大井武蔵野館
江戸の町を混乱に陥れようとする薩摩の勇み足に天狗が対抗。
杉作役の松島トモ子がむちゃくちゃ可愛いぞ。by K. Hattori



 鞍馬天狗と杉作が、古巣京都を離れて江戸で大活躍するお話です。江戸幕府の威信を傷つけ江戸庶民の幕府への不信を植え付けるため、薩摩藩が密かに組織した御用盗。黒装束に身を包み、徒党を組んで深夜商家に押し入っては、金品を奪い、家人を殺害し、女を犯す乱暴狼藉。勤王倒幕で薩摩と意気投合する天狗も、庶民を苦しめるこの仕打ちには黙っていられない。単身江戸に潜入した天狗は、薩摩藩邸に直談判に向かうが彼の願いは聞き入れられない。これが前段で、この後天狗を慕う正義感あふれる薩摩藩士の謎の死や、秘密の毒薬を使った暗殺の頻発、幕府と薩軍を天秤に掛ける悪徳商人、御用盗に両親を殺され自らは犯された娘、彼女を慕う天才科学者、天狗を夫の敵と付け狙う武家の女、天狗を慕う芸者など、さまざまな人物たちが入り乱れて、なにやらゴタゴタと物語はクライマックスに向かって行く。

 本来は盟友であるはずの薩摩と天狗が、御用盗の一件で袂を分かつというアイディアは面白い。天狗は大義名分のために手段を選ばぬという政治には、決して馴染めない男だ。彼の心は常に庶民の側にある。たとえ倒幕という共通の目標があろうとも、そのために庶民を苦しめてなんの益があろうか。じつにシンプルでわかりやすい理屈だ。このわかりやすい理屈を、もっとすっきりとした物語にまとめられれば良かったのだが、映画は盛りだくさんのアイディアを消化しきれないまま終わっている。残念。ラストシーンで天狗が薩摩藩と和解し、ニコニコ笑いながら馬を連ねて走り去るシーンなどは、どうも割り切れないものが残るばかり。御用盗が出した犠牲者たちへの償いはどうなったんだろうか。わからん。

 一途に研究にのめり込む平田昭彦演ずる天才科学者は、許嫁のお滝がなかなか自分との結婚に踏み切れないのを不審に思うが、その本当の理由を知ってショックのあまり我を忘れる。彼女は御用盗に両親を殺され、自身は陵辱されていたのである。この事実からふたりが立ち直れないまま、ずるずると自滅していってしまうあたりが昔の映画だなぁ。今この話を作るとしたら、ふたりにはちゃんと立ち直って幸せになって欲しいところだ。昔は男に無理矢理犯された女は死ぬしかなかったのかね。傷つき泣いている女を後目に、フラフラとひとりで自分の世界に戻っていってしまう男もわからんが、映画ではこの男にかなり同情的な視線なんだな。今となっては理解できない。無茶苦茶だ。

 科学者の研究室が爆破されたとき、ガレキとなった屋敷の中から天狗だけが無事救出されるのは思いきりご都合主義の匂いがする。このあたりはもう一工夫必要だろう。ま、それでも杉作役の松島トモ子がかわいいから許しちゃおうかしら。


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