ドンファン

1995/09/23 東條会館(試写会)
ジョニー・デップが伝説のプレイボーイ、ドンファンを演じる。
彼の語る回想シーンが素晴らしい。by K. Hattori



 『34丁目の奇蹟』と『虹をつかむ男』を足したような、大人のためのファンタジー映画。現代によみがえった愛の貴公子ドンファンと、彼を「治療」しようとしながら、逆にこの青年にどんどん惹かれて行く精神科医の物語だ。物語の筋立てだけを見れば、相方になる人間は警官だろうとデパートの宣伝係だろうとなんでも良かったはず。それをあえて精神科医にしたあたりに、『34丁目の奇蹟』へのオマージュを感じてしまうのですねぇ。あの映画でサンタクロースを罠にはめようとしたのが、デパート付きの精神科医。この映画では逆に、精神科医がドンファンに感化され、彼を守るのです。サンタクロースが周囲の人々を次々と幸せにしていったように、ドンファンも周りの人間を幸せにして行く。彼は女性に対する愛を語りながら、老若男女、全ての人に満ち足りた幸福を与えるのです。

 ドンファンの語る身の上話が、これまたじつに魅力的なのですね。ドンファンの語りに合わせて場面が切り替わり、どこまでも一人称で荒唐無稽なほら話が展開するあたりは、ダニー・ケイ主演の名作『虹をつかむ男』を彷彿とさせます。たぶん制作者たちは、これらの映画を十分に意識していることでしょう。ドンファンの両親が互いに一目惚れしてダンスを踊るシーンなどは、その唐突さと強引さがミュージカル映画ばりの開き直り具合で、僕としては大いに楽しませてもらいました。

 こうした古典の焼き直しは、どこかに現代的なセンスが感じられないと古くさくなる。この映画を懐古趣味から救っているのは、ドンファンを演じたジョニー・ディップのみずみずしい魅力です。脚本にところどころ破綻のあるこの映画を救っているのは、ひとえに彼のおかげでしょう。愛の貴公子であるドンファンの語る恋愛哲学は、繊細でちょっと神経質そうなジョニー・ディップでなければ嘘になりそうです。もしキアヌ・リーブスがドンファンだったら、彼は永久に精神病院から出てこれないでしょうね。

 一方、精神科医を演じたマーロン・ブランドは、最初から最後まで「燃えつき症候群」から抜け出せないままでした。上り坂のディップと並ぶと、ブランドの零落ぶりが痛ましいほど。この人も昔はエネルギッシュな若々しさで売っていた時期があったはずなのに、今では完全にしょぼくれています。一瞬画面に若い時分の写真が映ったりすると、あまりの落差に愕然としますね。年をとっても素敵な役者はいくらでもいますけど、この人はダメになってしまった人でしょう。すごく影が薄いんです。存在感がまるでない。せめてもう少しやる気を見せてくれれば、この映画はあと10倍ぐらい素敵な作品になったんだろうけどなぁ。借金が大変なのかなぁ。製作のコッポラと同病相哀れむか……。トホホホホ。


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