メリー・ポピンズ

1995/05/19 有楽町スバル座
不思議な家政婦メリー・ポピンズのせいで家庭は崩壊寸前。
メリー・ポピンズは無責任にも逃げてしまう。by K. Hattori



 徹頭徹尾〈子供だまし〉なミュージカル大作。子供だましも徹底すれば何事かに到達するという、まさに見本のような映画である。大のおとなが大真面目に作った子供向きの良心作。〈よい映画〉なんだろうってことはよくわかるのだが、僕にはあいにくつまらない。つまりは、お行儀がよすぎる。さらに言えば、優等生すぎる。僕はこの映画を以前にテレビかビデオで途中まで見た記憶があるのだが、その時は途中で飽きて投げ出してしまった。今回も、映画館で観なければおそらく途中で投げ出してしまっただろう。とにかく、僕はこの映画にはぜんぜんワクワクできないのだ。

 この映画の唯一の見どころは、主演のジュリー・アンドリュースだけ。少なくとも、僕にとってはそう。それ以外の人物は、ぜんぜん好きになれない。あ、例外がいた。それはあのヨレヨレになった、銀行頭取。あの老人はいい。

 ポピンズを迎える一家は誰もがくたびれた顔をしていて、観ているこちらは憂鬱になる。なにしろ、子どもふたりが全然かわいくない。特に男の子の方は最後まで救いようがないな。どう贔屓目に見ても、どう感情移入してもダメなのよ。かわいいと思えない。道で出会ったら蹴飛ばしたくなるような顔なんだよね。別に憎たらしいわけじゃないんだけど、薄ぼんやりした、いじめられっこ顔なんだなぁ。

 父親は会社でペコペコした反動からか、家では専制君主のように振る舞う封建親父。母親はそんな父親や子どもたちに半分無関心で、自分は婦人参政権運動に血道を上げるばかり。この映画の中では肉親の情が希薄だなぁ。舞台がイギリスだからか。いやまて、舞台がイギリス・ロンドンで、同じディズニー映画でも『ピーターパン』は違ったぞ。

 ミュージカル映画として観ても、歌はいいけど踊りはアイデア倒れで躍動感がないように思える。たぶん、トリック撮影やアニメとの合成が目玉になるため、ダンスが本来持っている肉体の魅力が脱色されているのでしょう。でも、MGMでアステアが部屋の壁から天井まで踊って見せたり、ジーン・ケリーがアニメと共演した場面はすごく面白いんだから、『メリー・ポピンズ』という映画には何か重大な欠点があるような気もする。

 乳母にそそのかされて職場に子どもたちをつれていったばかりに、職場は大混乱、父親は馘首。ここで突然父親は笑いだし、子どもたちに教えてもらった呪文を大声で叫ぶと踊りながら外に飛び出す。彼はその夜家に帰らなかった。いったい何が起こったか。翌朝ズタボロになって帰ってきた父親は、家族と共に凧上げに。どう見てもヤケクソ。そんな一家を置き去りに、ポピンズは風に乗ってどこかに去ってしまうのだった。なんて無責任な話だろう。



ホームページ
ホームページへ