生活の設計

1995/05/07 早稲田松竹
ひとりの女にふたりの男。大人の三角関係を描くお洒落な喜劇。
1933年にエルンスト・ルビッチが撮った傑作。by K. Hattori



 ひとりの女と二人の男の三角関係と互いの友情を描いた、トレンディードラマのような喜劇。女は広告会社に勤務するイラストレーター。男は野心あふれる画家と未公演作品専門の戯曲作家で、この典型的な売れない芸術家は、古くからの親友同士だということが一目でわかるようになっている。3人がたまたま乗り合わせた列車で知り合い、急速に惹かれ合って行く様子がテンポよく描かれる。舞台はパリに向かう電車で始まり、ロンドンを経由して再びパリに向かうところで終わる。見事な構成。原作はノエル・カワード。

 ミリアム・ホプキンス演ずるイラストレーターが二人の男を翻弄することになりますが、彼女の個性もあってこの人物像には嫌らしいところがない。これは前半部分がきちんと描けているからでしょう。やっていることは結構すごいと思うけど、最後まで彼女は魅力的だし、広告会社の上役なんかにはもったいない女性だってことが観客にはわかっている。

 それにしても昔の映画って、ベッドの中のことを別のことで想像させるのが本当にうまいんですね。ホプキンスは結局3人の男の間を行ったり来たりして、その全員と関係がありますが、その描き方が上品です。何も見せないんだけど、観客には全部わかるようになっている。一番ドキドキするのは、久しぶりに訪ねてきた作家と彼女が、互いの気持ちの高まりに誘われるように一夜を過ごすところ。タイプライターのベルがきっかけで、二人は熱い抱擁を交わす。翌朝の朝食で二人の関係がすっかりわかるし、その場の会話で、二人の関係がどんな具合に進展したかまでが全部わかるのです。

 広告会社の上役との描写も秀逸。家具屋の場面で相手の男がメジャーを互いの肩にあてる芝居がありますが、それだけで観客は「ふ〜ん、なるほど」と全てを飲み込むことができる。やがて二人が結婚し、新婚初夜。鉢植えのエピソードで、二人がどういう夜を過ごしたか想像できるあたりは大人の演出です。

 こういう場面なんか、今の映画だったら間違いなくカメラが寝室まで入って行くでしょうね。むしろ、そうしないと今の観客は物足りなく感じるかもしれないし、それが許されるならルビッチだってそれをしたかもしれない。でも、それではこの映画の味わいは出ないんだよね。むしろ、ある程度の制約があった方が、技術というものは洗練されるのです。この映画の演出など、洗練の極みと言っていいでしょう。まさに名人芸。

 過不足のないエピソードの配列と、切れ味のいい演出、しゃれた台詞も盛りだくさん。これは文句なしの傑作です。

 ところでこの後、彼らの関係はうまく行くや否や。ぎりぎりそこを描かないのも、また良しです。



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