雲の中で散歩

1995/04/11 よみうりホール(試写会)
電車の中で知り合った女性と心優しい帰還兵士の物語。
キアヌ・リーブスがミスキャストじゃないの? by K. Hattori



 『スピード』のヒットで女性をメロメロにしたキアヌ・リーブスの新作を、5月のロードショウ前に試写会で観てきました。この映画はいいぞ。監督は『赤い薔薇ソースの伝説』のアルフォンソ・アラウ。第二次大戦直後のカリフォルニアを舞台に、戦争から帰った若い男と、偶然知り合ったメキシコ人女性、男と彼女の家族との交流をていねいに描いています。

 主人公ポールを演じるのは、もちろんキアヌ・リーブス。『スピード』の若い警官がそのまま過去にタイムスリップしたような好青年ぶり。以前はどこかふやけたところのある、頼りなげな二枚目という印象が強かったのですが、前作で精かんな表情もすっかり板に付きました。ただ、この映画に関して言えば、そうしたリーブスの成長ぶりがかえってあだになっている。この映画のポールは、ちょっと表情が硬いんだなぁ。もうすこしフワフワした頼りない男の方が、この物語にはマッチしたはずだ。特に何ができるわけではないのに、ただひたすら人がいい男。その人のよさが、周囲の人間を少しずつ変えてゆく。そんな物語に、今のリーブスは少しミスキャスト気味なんです。

 これが2,3年前のリーブスなら、映画にばっちりはまったんでしょうが、いやはや、役者にも旬というものがあるんですねぇ。現在のリーブスでは、映画の前半と終盤がちょっと苦しく感じられる。この古風なラブストーリーに、『スピード』の顔で登場されると雰囲気がぶち壊しなんだよね。それに、いかにも作り話っぽくなってしまう。残念。

 それでも、映画の中盤は抜群にいい。ポールが列車の中で知り合った美女の家をひょんなことから訪ねることになったとたん、突然ひびく雷鳴のような銃声。美女ビクトリアの父親が登場するこのシーン以降、僕は映画の世界にどっぷりと浸る快感を久しぶりに味わうことができました。

 ジャンカルロ・ジャンニーニ演じる頑固親父が実にいい。家族おもいだが愛情を素直に言葉や行動に表せないこの古風な男に、僕はたまらなく魅力を感じます。物語のおいしいところを全部さらう老農場主役で登場する、名優アンソニー・クインも印象的。そしてヒロイン、アイタナ・サンチェス=ギヨンの美しさ。スペインの人気スターだそうですが、この映画でアメリカデビュー。今後に注目です。

 映画のタイトルにある『雲の中』というのは、ビクトリアの実家である大ブドウ農園の名前。そこで繰り広げられる人々の暮らしの、なんと美しいことか。ブドウの収穫とワイン作りシーンの楽しさは、『刑事ジョン・ブック/目撃者』に登場した、アーミッシュたちが納屋を作るシーンの楽しさに匹敵する。物語はいかにも出来合いだが、この農場の生活と人々だけは、映画の後も長く忘れられないだろう。



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