時の輝き

1995/03/21 松竹セントラル2
期せずして字幕入りの映画を観たせいで台詞がしつこく感じた。
今風の難病メロドラマは男が死ぬ。by K. Hattori


 原作には全然興味がなかったんだけど、脚本に山田洋次の名前がクレジットされているので、ハズレることはあるまいと踏んだ。監督は若手の朝原雄三。ずっと山田監督の助監督をやっていた人物らしいが、これがデビュー作。主演の二人はともかくとして、すごいのは助演陣の豪華さ。風吹ジュンと橋爪功は見事。主治医役の別所哲也も好演。樹木希林は画面に厚みを出し、夏木マリも存在感がある。「TVタックル」でもおなじみの石井苗子が、ベテラン看護婦役で出演しているのもはまり役。これで面白くないわけがないと判断するのは、当たり前でしょう。

 ところが、あいにくと僕はこの映画にのれないんだ。最大の原因は、映画の冒頭からラストまで延々続く主人公のモノローグに、どうしてもなじめなかったこと。僕が観たのは松竹セントラル2だったのだが、ここでは字幕付きの上映をしていて、モノローグの効果が2倍に増幅される。画面で説明できることを、わざわざモノローグにするセンスって、映画としてはクドイんじゃないだろうか。

 たぶん原作の小説が、少女の一人称で書かれているのだろうと推察する。この脚本は、その一人称をそのままモノローグに置き換えているんでしょうね。ひょっとして、それが「折原ワールド」なんでしょうか。モノローグという手法がダメだという気はないし、効果的に使えば、若い出演者の拙い演技を補うことにもなったと思う。でも、画面で充分伝わっていることも、言葉にしてしまうと、とたんに白けてしまうってことがあるんだなぁ。

 こうした手法も、原作のファンにしてみると嬉しいのかもしれない。この映画のターゲットは、やっぱり原作のファンである、女子中高生ぐらいだと思うものね。へたに脚本が映画的アレンジをしてしまうと、ファンには納得のいかないものになる。

 映画としては真っ正面から正攻法で作っている作品で、全体としては好感が持てた。出演者たちも、いい芝居をしているしね。中でも、主人公の少女が相手の少年に、どうやって想いを伝えようかと思い悩むシーンはよかった。バックに流れている音楽も効果的で、僕は思わずホロリときました。

 物語は昔からある難病物のパターンなんだけど、病気になるのが少年で、看病するのが少女というのが今風なんだね。ジュリア・ロバーツ主演の『愛の選択』も同じような話でした。ま、山本耕史の闘病シーンに、キャンベル・スコットの迫力はないな。それにやっぱり、主人公たちが幼すぎる。

 主人公の少女がボーイフレンドの看病をする動機は、同情ではないと説明されている。実際、これは同情じゃないよね。でも、観客が涙を流すとすれば、それは同情の涙だろう。本当は、主人公に共感して、本当の涙を流せる映画にしてほしかった。


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