ガス・フード・ロジング

1995/02/25 シネマカリテ3
ファイルーザ・バルク演じるシェードの可愛らしさに参った。
少し悲しく少し温かく、最後は爽やかな映画。by K. Hattori


 女の子の一人称で母親とふたりの娘の日常生活が語られていくスタイルは、ノーラ・エフロンのデビュー作『ディス・イズ・マイ・ライフ』を思い出させる。ボーイ・フレンドとの初体験が描かれたり、最後には母親に新しい恋人ができるところまで同じじゃないの。これって、ひょっとしたら〈真似〉ってやつかしら……? と思ったら、この映画の製作は1991年。なになに、ぴあのシネマガイドによればエフロンの『ディス・イズ・マイ・ライフ』は1992年製作とな? これはどっちがどう真似たんだか影響されたんだか、微妙なところだぞ。この映画の監督はアリソン・アンダース。やはり女性監督、やはり長編デビュー作というのも、エフロンの『ディス・イズ・マイ・ライフ』との共通項。どちらも温かい雰囲気の、素敵な映画です。

 映画は全編、徹底して女性の視点から描かれる。スペイン映画に酔いしれる次女を語り手に、ウエイトレスをしながら娘ふたりを育て上げた母親、真実の恋を見つけられないまま不安定な生活を送る姉が紹介されたあと、3人の女性の間で視点を移動しながら物語が語られる。男性はこの映画の重要な登場人物ではあるが、あくまでも脇役。主役は母親とふたりの娘達だ。

 姉トルーディーを演じたアイオン・スカイ、妹シェードを演じたファイルーザ・バルクは、ともに僕にとっては新顔の女優たち。今後は注目しよう。しっかり者の母親を演じたブルック・アダムスは、クロネンバーグの傑作『デッドゾーン』で、クリストファー・ウォーケンの恋人を演じていた女優だそうな。まぁまぁ、見事にトシをとったわねぇ。

 細かな日常のエピソードを積み重ねて、淡々と物語を組み立てていく映画だけど、登場人物のひとりひとりに出会いがあり、別れがあり、そのひとつひとつがそれぞれ甘く、切ないエピソードばかり。母には母の、姉には姉の、妹には妹の恋があり、それぞれ真剣。真剣だからこそ、時に滑稽だったりもするし、辛く悲しいときもあるのだね。シェードがオリビア・ニュートンジョンの扮装でボーイフレンドににじり寄ったり、母親がシェードの策略で自宅ブラインド・デートさせられてしまうシーンは滑稽だけど、その反面、すごく切ない場面だった。

 母親と争ってばかりいる姉が、恋人に自分の胸の痛みを打ち明けるシーンも悲しい。この場面のすぐ直後に、母親が彼女をなじるシーンを入れるあたりは監督の腕だね。ものすごく効果的。

 とっても素敵なシーンがたくさんある映画で、僕は大好き。ボーリング場で母親の恋人に引き合わされた時、なんとなく胡散臭い目で彼を見ていた娘が、映画の話でいっぺんに彼と打ち解けてしまうシーンが、中でも僕のお気に入りです。映画はいいなぁ。


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