最高の恋人

1995/02/10 シネマスクエアとうきゅう
マット・ディロンとアナベラ・シオラ主演のロマンチック・コメディ。
メアリー・ルイーズ・パーカーが可哀相すぎる。by K. Hattori


 仲のよい幼なじみ同士が結婚して、やがてつまらない意地の張り合いから離婚。屈折した未練は憎しみに変わるが、そこはそれ。互いに気心の知れた幼なじみだから、次第に相手を理解し、やきもちを焼き、打ち解け、結局ヨリを戻してしまうという物語。ま、ありがちなパターンですなぁ。もっとも、恋愛映画のほとんどは〈ありがちなパターン〉の繰り返し。それをどう料理するかが腕の見せ所で、その点でこの映画は水準を上回っていると思う。

 配役がいい。『シングルス』でブリジット・フォンダ相手に好演したマット・ディロンが、主人公ガスを演じている。これがぴたりとはまって気持ちいい。彼って基本的に〈いい人〉なんでしょうね。画面に登場した瞬間、それが観客に伝わってしまうから、『シングルス』でふてくされたロック野郎を演じても、この映画で別れた妻に悪態をついても、その背後に好意が見えてしまうのね。逆に『死の接吻』でショーン・ヤングの相手役になっていたときなんかは、全然つまらんのよ。根が善人の役で、はじめて魅力を発揮できる俳優なんでしょうな。

 そんな彼の元妻を演じたアナベラ・シオラ。僕はこんなにチャーミングな彼女を見るのは初めてです。『ジャングル・フィーバー』では黒人の同僚と不倫して父親にぶん殴られ、『揺りかごをゆらす手』では喘息の発作を起こしてのたうち回り、『蜘蛛女』では夫の不品行が原因でマフィアに殺されるなど、あまり幸福な役に恵まれない人だったんですけどね。今回の役は明るくていい。ちゃきちゃきした下町のお姉ちゃん風で、すごくかわいいんです。

 ガスの恋人を演じたメアリー−ルイーズ・パーカーは、常に薄幸な雰囲気が漂う女優さん。夫の暴力に耐えきれず、身重の体で家を飛び出す『フライド・グリーン・トマト』。若くして結婚に失敗し、トレーラー・ハウスで子どもふたりを抱えて暮らす『依頼人』。今回も、引っ越し当日になって荷物を返し、ベランダで涙ぐむ姿が痛ましいぞ。しかし、パーカーというのは常に、芯に強いものを持った女を演じる女です。笑った顔がちょっと意地悪そうに見えてしまうのが残念ですが、彼女が徹底的に幸福になる映画も観てみたい。がんばれパーカー。

 ウィリアム・ハートが演じた大学教授にはあまり同情が集まらないだろうけど、あれはあれで、彼なりの誠意のあらわし方だったんだよね。彼の女性に対する態度が悪いとは思わない。ただ、彼にはこの映画の他の登場人物が全員持っている、前に進んで行こうとする積極性や勇気のようなものが見られない。ひたすら守りの態度だった。それが結局、リーに振られる原因になったんじゃないだろうか。

 最後まで気の毒なのはやはりドミニクだけど、彼にはホント同情するしかないです。お生憎でした。


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