インタビュー・ウィズ・バンパイア

1994/12/21
クリスチャン・スレイターが吸血鬼ブラッド・ピットにインタビュー。
ニール・ジョーダンの演出が耽美的な世界を作る。by K. Hattori


 なんだかずいぶんと駆け足の映画だった。ひとつひとつのエピソードは魅力たっぷりなのに、そのオイシサを味わう間もなく、めまぐるしく物語が進み、次々と流れ去ってしまう。年末に放送される大河ドラマの総集編か、2時間に編集した『風と共に去りぬ』、『デューン/砂の惑星』、黒澤の『白痴』のような印象だ。原作の読者は描かれなかったエピソードの細部を、文章のイメージで補うことができるんだろうけれど、映画しか観ていない僕にとっては欲求不満になりそう。ニール・ジョーダンのぬらぬらと怪しい画面演出は、なおさら僕を欲情させてしまいましたが、その持っていき場がなくて困ってしまいます。エピソードを半分にして細部まで丹念に見せるか、長さを倍にするかにしてほしかった。

 原作者が脚本も書いているんだけど、こうした物語の場合、原作者は脚色を他人であるプロのシナリオライターに任せてしまった方がいいね。自分で作った物語の世界を、原作者は壊すことができないんですよ。ましてやこの原作って、シリーズになっているぐらいだから、作者としては並々ならぬ愛着を持っているわけでしょ。それを映画向きに脚色しろといわれても、作者にはもう触れないんだね。

 『風と共に去りぬ』の場合、原作者マーガレット・ミッチェルは脚本にノータッチで、全て脚本家に任せてしまったそうじゃないですか。それがあの傑作を生んだのね。映画化がたびたび失敗するS・キングの奇跡的な成功例『デッド・ゾーン』も、原作者自ら書いた脚本を結局はボツにしている。

 原作者が脚本を書いて成功する例もあるけれど、失敗する例のひとつに、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』も入ると思う。話はもっともっと整理できるよ。監督のニール・ジョーダンは『クライング・ゲーム』の脚本でアカデミー賞をとった人なんだから、その点はわかっていたはずなんだけどね。今回は原作人気の観客目当てだから、その点は目をつぶったらしい。

 ニール・ジョーダンといえば、デビュー作『狼の血族』は、日本初のヘアー解禁映画だったことを皆さん覚えておいででしょうか。今回の映画ではデビュー作ほど控え目でなく、あからさまに女性のヘアーが登場しますが、これを見て僕はそんなことを思い出しました。

 それにしても、この脚本だと演出する方は楽でしょうね。エピソードは山盛りだし、全てが絵になるし、出演しているのはトム・クルーズとブラッド・ピットだし、原作人気で集客がある程度見込めるし、時代と場所の移動で画面に変化が出せるし。でもさ、この映画をニール・ジョーダンが撮る必要はないね。才能の浪費だよ。『クライング・ゲーム』を楽しんだ観客としては、もっと別のものが観たいな。


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