マンハッタン殺人ミステリー

1994/09/29
高級マンションの隣室で殺人事件が起こったのではと勘ぐる妻。
素人探偵が巻き起こすドタバタだが基調はホームドラマ。by K. Hattori


 世の中にはやたらと物事を複雑に考える人がいるものです。どうでもいいことに夢中になったり、わざわざ厄介ごとに首を突っ込んだりする。こういう人に言わせると、フォーラムのスタッフは20番会議室で一般会員の悪口にのべつ花を咲かせているらしいし、隣家で起きた婦人の心臓マヒは病気に見せかけた殺人だということになる。周囲の人がいくら説明したって聞きやしない。自分の憶測があくまでも正しいと信じ込む。今まさに自分の身近で起こっている、陰謀と策謀。それに自分が介入するスリルとサスペンス。平凡な日常に飽き飽きしているダイアン・キートンは、自分の頭の中でこしらえたこの殺人事件に夢中になります。

 こうした人のそばにはたいがい悪い仲間がいるものです。この映画の場合、キートンと一緒になってこの殺人事件捜査に熱中する劇作家がそれ。この劇作家はキートンに好意を持っていて、それに彼女も気がついている。ウディ・アレン演ずるキートンの夫は、二人が仲良くしているのを、苦々しくながめているだけ。このあたりの描写は、ウディ・アレンの手並みがさえる部分です。

 キートンと友人の捜査は続きます。しかし、決定的な決め手に欠ける。夫は全くこの件には関心がない。劇作家にしても、知的な暇つぶしとキートンに近づく口実ほしさに、この捜査を面白がっているような雰囲気。結局、本気で犯罪だと考えているのはキートンひとりなのでしょうか。ところが、彼女は見てしまった。心臓マヒで死んだことになっている隣家の婦人が、バスに乗っている様子を。

 婦人はキートンの見間違いか、はたまた幽霊か。いやがるアレンを引っ張って、張り込みを続けるキートン。そしてついには、アレンも隣家の婦人を見てしまう。直後には殺人事件。しかしその死体は煙のように消える。まさにミステリー。

 素人探偵が殺人事件の謎を推理して、最後は犯人を突き止めるという筋立てですが、中心にあるのは中年夫婦の日常描写。子供が成長して家を出た後、残った夫婦がどう暮らして行くかという話です。4人の男女が出てきますが、どの人物もじつに生き生きと描けていて、会話のシーンなどはしみじみとおかしい。真夜中のレストランで作戦を練るシーンは、いかにもありそうな雰囲気で、この映画の中でも最高の場面のひとつでした。ミステリー映画としては、犯罪もトリックも見せ方に工夫がないし、サスペンスも全く盛り上がりません。あくまでもコメディ映画の味付けとしてのミステリーなのでしょう。

 最後は四方丸く収まってハッピーエンド。人間の直感というものは、バカにできないというお話でした。ところで19番会議室での騒ぎは、うまくハッピーエンディングを迎えられるのかな?


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