ブロンクス物語

1994/09/09
ブロンクスで生まれ育った少年の成長記をギャングとの交流を通して描く。
俳優ロバート・デ・ニーロの初監督作品。by K. Hattori


 1960年代。ブロンクスの貧しい街角では、ギャングが子供達のアイドルだった。皆がひたいに汗して日銭を稼ぐ中で、ギャング達は上等のスーツに身を包み悠然と通りを歩いた。誰よりも羽振りがよかった。男気があった。ギャングにあこがれる子供が登場する映画といえば『グッド・フェローズ』があるが、あの映画で主人公のヒーローであるギャングを演じたのはロバート・デ・ニーロ。彼は監督デビュー作であるこの映画の中ではまるで正反対の役どころ、ギャングにあこがれる息子を持つ堅気のバス運転手を演じている。

 この映画で最も存在感の大きいキャラクターは、ギャングのボスであるソニー。主人公カロジェロをCと呼んで息子のようにかわいがり、カロジェロからも父のように慕われるこの男は、身の回りの誰をも信用できない寂しい男でもある。路上で男を射殺する場面をカロジェロに目撃されていながら、銃を持つ男は弱虫だとカロジェロに諭す矛盾した男である。なにかとカロジェロの世話を焼くくせに、この少年には自分のようになってほしくないと願う男である。この難しい男を演じたのはチャズ・パルミンテリ。この映画の脚本家でもあり、原作の舞台脚本家でもある彼は、ソニーという男を自然体で演じてデ・ニーロ以上の存在感を見せた。「一生のうち、出会う女は3人だけだ」とか「俺のまねをするな。これは俺の人生だ。お前はお前の人生を生きろ」なんて名台詞だと思う。

 貧しい生活ながらも自分の仕事に誇りを持ち、ギャングのソニーにも一目置かれる主人公の父・ロレンツォを演じたロバート・デ・ニーロは、押さえた演技で脇に回りながら、それでも要所要所で場面をさらう。この人は犯罪者とか病人とか癇癪持ちとかエキセントリックな役が多いのだけれど、今回の役はいかにも普通の人。作品のバランスから考えれば、この役は別の役者がやった方がよかったかもしれないが、それでも出演してしまうのは彼の役者としての出たがり精神、あるいは初監督作品を観に来てくれたファンへのサービスでしょう。

 個人的な好みを言えば、導入部はもう少しコンパクトにまとめた方がよかったとか、主人公のモノローグがしばしばうっとうしく感じられるとか気になる点はあるけど、全体の構成はダイナミックな素材をシンプルに力強くまとめてあるし、各エピソードも上手く案配されている。時代背景になる町並みや風俗、音楽なども映画の風景に奥行きを出している。役者が作った映画だけに俳優はどれも粒ぞろいで、バーにたむろするギャングや博打打ちたちの面構えはいかにもそれらしい。暴力描写や残酷描写は、物語の静かな雰囲気をこわさない程度に抑制されている。ジョー・ペシが少ない登場シーンながらも貫禄あるところを見せているのも忘れられない。観て損のない映画でした。


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