マイ・ライフ

1994/02/23 (試写会)
我が子の顔を見ることなく死ぬことになった男が子供に残すメッセージ。
良くも悪くもマイケル・キートンの独演会。by K. Hattori


 松竹シネクラブの試写会で観てきました。地味ですが端正な作りの映画です。

 ガンで余命いくばくもない男ボブは、妻ゲイルの体内に宿る自分の子供のためにメッセージ・ビデオを残そうと考える。この超私的な映像記録が物語を引っ張ってゆく。東洋人によるヒーリング治療は、物語の味付けに過ぎません。スタッフが同じだからといって『ゴースト』のような超常現象を期待してはいけません。ひとりの人間が心安らかに死を迎えるかという「奇跡」が描かれているのは事実ですが、その奇跡は「家族への愛」「家族からの愛」という極めて当たり前のことから発生したものなのです。しかし一見当たり前のその愛情を受け入れるのに、ボブがいかに苦労することか……。

 何度かホロリとさせるシーンはありましたが、残念ながら僕はこの映画にノレませんでした。僕自身が自分自身の「死」というものを、あまり身近に考えたことがないからかもしれません。超常的な現象の中に男女の愛情を描き切った『ゴースト』に対し、『マイ・ライフ』はあくまでも日常の中で家族の愛が深まって行きます。血を分けた家族がケンカをしたり仲直りをしたりという一連の描写は、まさにアメリカ映画の独壇場。主人公が弟の結婚式に出席するシーンなどは、なかなか日本人には真似ができません。アメリカ人はこうした描写をいとも簡単にやってしまうのだなぁ。

 この映画一番の見どころは、ボブを演じるマイケル・キートンの多彩な芸に尽きます。ビデオカメラに向かってえんえん繰り広げられるひとり芸は、彼のコメディアンとしての面を充分に堪能させてくれます。傑作は「握手の仕方」。それ以外のシーンでも、彼の軽やかな身のこなしが、湿っぽくなりがちな物語に彩りを添えています。また、病み衰えていく描写にも説得力があり、この映画で彼の役者としての格はずいぶん上がることでしょう。

 ゲイルを演じたニコール・キッドマンも、『遥かなる大地へ』の頃の硬質な(小娘的な)演技から一皮むけた感じです。これからの彼女に、ちょっと注目です。


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