レザボア・ドッグス

1993/05/07
クエンティン・タランティーノが世の映画ファンを震撼させた処女作。
むき出しの暴力が男たちの虚飾を剥ぎ取って行く。by K. Hattori



 食堂で男たちが話しているオープニングの場面だけで、僕はワクワクしてきた。ひとりひとり画面一杯にアップで写しだされる男たちの面構えは、どれも一癖も二癖もありそうな連中ばかり。ギャング映画だってことは知ってたから、強面の男たちがどんな悪巧みをしているのかと思いきやさにあらず。やれ「マドンナの“ライク・ア・ヴァージン”は云々」とか「あそこのラジオのDJは最高だ」とか「俺は見合ったサービスを受けないとチップは払わねぇんだ」とか、そんな世間話をえんえんやっている。犯罪のハの字も出ない。これがプロローグ。そこから暗転して次に画面に写しだされるのは、車の後部座席で血だらけの腹を押さえてのたうち回る男の姿だ。

 男たちは宝石店を襲撃するために集められたギャングだが、周到に準備されたこの襲撃計画は失敗する。しかし、襲撃シーンそのものは画面で見せない。いきなり逃亡シーンになってしまうのだ。アジトの倉庫に戻ってきた男たちは、仲間の中に警察の囮捜査員が紛れ込んでいるに違いないと考える。

 登場人物は男ばかり。主な舞台はアジトの倉庫だけ。派手な銃撃戦もなければカーチェイスもない。BGMらしいBGMすらないときている。(きっと低予算の映画なんだと思う。)ないない尽くしのこの映画でやたらと目立つのは、多用されている登場人物のクローズアップだ。男たちの表情が他のどんな要素よりもこの映画のトーンを決定していると思う。そして男たちはみな、実に魅力的な表情を見せている。

 『天使にラブ・ソングを…』でもギャングを演じたハーヴェイ・カイテルが、主人公格の男を熱演。『天使に』では尼僧たちに振り回される間抜けな男でしたが、今回は義理と人情に生きるいい男ぶりを見せます。ラストシーンの力強さは、ひとえにカイテルの存在感ある演技に負うところが大きかったと思います。地味な道具立ての中で、最後まで一定の緊張感をうしなわなかった演出も立派。観てよかったと思える1本でした。



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