トイズ

1993/04/12
傑作ファンタジー映画になり損ねた残念賞映画。
ジョーン・キューザックがかわいい。by K. Hattori



 オープニングから既に違和感があった。ミニチュアのニューヨークで繰り広げられるバレエは素晴らしく楽しい。でも、この時観客を見せないほうが良かったんじゃないのかな〜。小出しに見せていた観客も、一体どういう人達なのか良くわからないままだったし。(会社の従業員なのかな〜。)ここは楽しいレビューシーンだけをたっぷり見せて、一段落ついたところで拍手喝采。はじめて観客がいることがわかる。そのほうが良かったんじゃないのかな〜。どうにも中途半端ですよ、これは。そしてこうした中途半端な印象は、映画全体におよんでるんです。

 物語自体はマンガなんだから、登場人物ももっとマンガチックに演じられるべきだと思う。映画を観ると、どうもロビン・ウィリアムズとジョーン・キューザックが浮いてるんですよね。まあ、この兄妹ってのは少し変わってるっていう設定だからしょうがないのかもしれないけどさ。でもね、この映画の世界って、むしろこの兄妹のパーソナリティーにものすごく近いじゃない? 父親からして、心臓のペースメーカーを帽子のプロペラ(竹コプターみたい)でモニターしたり、自分の棺の中に笑い袋を入れておくような人物ですよね。会社の建物や内装のセンスもファンタジックで、そのままディズニーランドかサンリオピューロランドかってものじゃないですか。こうした世界に一番似合うのは、実はロビン・ウィリアムズとジョーン・キューザックの兄妹なんですよね。将軍もその息子も、主人公の恋人になるコピー係も、この兄妹にくらべるとどうも生臭い。もっと極端に誇張されたウスッペラな人物の方が、この映画には似合っていると思うけど。中途半端にリアルに演じてるんだよな〜。

 無邪気な軍事至上主義者である将軍も、特殊部隊に勤務しているというその息子も、もっと楽しい人物になるはずなんだけど。特に息子の方は爆発的なギャグを連発できる素材なのに、どうもひとつひとつのギャグが不発気味。受けたのはソファーから飛び出す初登場シーンのみではいかにも残念です。

 登場人物の生臭さは、物語が進むにつれてますますひどくなる。オモチャ同士の戦争になったあたりからは、目も当てられない惨状。これはひどい。こんなのあり? ドタバタ喜劇にすらならない極めて中途半端なサスペンス。僕はこんなものを求めてこの映画を観たわけじゃないんだけどな〜。もっとハチャメチャにしてくれないと笑えないんですよね。

 それにさ、ロビン・ウィリアムズがどんな演説をしようとも、あのオモチャ達って犬死にでしょ? 彼らは(と感情移入してしまいますが)一体全体なんの役に立ったわけ? 単に画面に色をそえて、時間的に間を持たせただけじゃないの? 一方的にやられてるだけで、反撃なんてなかったじゃないですか。これじゃあ、あのオモチャ達がかわいそうすぎます。事件の収拾のつけかたもいかにも取って付けたようなもの。もっとスマートな解決方はなかったんでしょうか。

 『トイズ』はどう考えても失敗作でしょうね〜。楽しいシーンもいっぱいあるし、セットや美術、音楽のセンスも良かったのに……。少なくとも、僕は『トイズ』という映画を観て、かなり欲求不満。もう少し頑張れば、最高のファンタジー映画になっていたかもしれないのにな〜。惜しい。残念。




 『トイズ』ってエキセントリックな人物が大挙して出てきますよね。ところがロビン・ウィリアムズの恋人になるコピー係の女性だけが、何の特長もないんです。これは本来なら、彼女が観客を物語へと導く案内係だからです。そう考えると入社して間もないという設定も理解できるし、ウィリアムズとの出会いのシーンも、キューザックとのトイレで合唱するシーンも納得できるでしょ? 最初はドギマギ、やがてニコニコ。どんどん彼女が打ち解けていくのがわかるんですよね。

 登場人物の関係やプロットを考えれば、むしろ彼女を主人公にするべきだったんです。要は『ビートル・ジュース』方式です。ある世界の中に新人を放り込んで、その人物を案内役に物語を進めて行くわけです。

 その場合『トイズ』は、観客と同じごく普通の女性がファンタジックなオモチャ会社で働くようになり、最初は戸惑いながらもだんだん周囲の人を好きになっていく物語になります。(ドギマギ、ニコニコね。)観客は彼女に感情移入することで、スムーズに物語の流れにのれるわけです。案内役以外の人物は、極端に誇張した個性の持ち主にすればするほどいいでしょう。その方がギャグが作りやすい。ただし、案内役のリアクションが自然でなければなりませんから、そこらへんはバランスの問題です。

 勃発するオモチャの戦争は、それぞれの個性と個性がぶつかる場としての戦争にします。別に「オモチャ=善」「兵器=悪」という価値観を強調する必要はないんです。ロビン・ウィリアムズは単にオモチャが好きで好きでたまらない人物で、将軍は単に軍隊と兵器が好きで好きでたまらない。ただそれだけのこと。どちらも同じくらい「ヘン」なんだけど、その対象が違うだけでしょ? 戦争はそれぞれの人物のハチャメチャさを強調するための道具立て。どちらが善でどちらが悪というのではありません。だから当然、死人も出ないしケガ人も少ない。目的はどちらが勝つか負けるかというサスペンスではなく、いかにしてその中に多くの個性とギャグを盛り込むかですからね。

 実際の『トイズ』ではロビン・ウィリアムズ主人公と将軍との対立関係が話の中心になってしまい、コピー係の女性とのロマンスすら脇に追いやられた印象があります。これではいったい彼女が何のために登場したのかわかりません。あえて言えば、主人公と妹との近親相姦ぽい描写を中和するくらいの意味はあったかも知れませんけどね。

 あーあ。つくづく残念な映画ですよ、『トイズ』は。



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