グランドピアノ

狙われた黒鍵

2013/12/26 ショウゲート試写室
舞台上のピアニストを狙うスナイパーの高解像度スコープ。
イライジャ・ウッド主演のサスペンス。by K. Hattori

13122602  高名なピアニストでもあった作曲家パトリック・ゴダールのピアノ曲「ラ・シンケッテ」は、高度な演奏テクニックが必要なことからこの世で演奏できるのは2人だけと言われていた。ひとりは作曲家本人であり、もうひとりはその高弟トム・セルズニックだ。だがトムは一度この曲の演奏に失敗して以来、舞台恐怖症になって演奏活動から退いてしまった。それから5年。恩師ゴダールが亡くなったことから、追悼コンサートでトムが演奏活動にカンバックする。しかし演奏をはじめた彼は、譜面台の上の楽譜に奇妙な指示が書き込んであるのを見つける。それは客席の最上段からトムに狙いを付けた、目に見えぬ狙撃手からの脅迫文だった。「演奏に集中しろ。一音でも間違えたらお前を殺す。逆らったり誰かに助けを求めるようなら、客席にいるお前の妻を殺す」。照準用の赤いレーザーと消音器付きのライフルから発射された銃弾は、犯人が本気であることを示していた……。

 ピアニストを主人公にしたスリラー映画で、犯罪とまったく関係ない立場にいるはずの男が、犯罪者のある目的遂行のために命を狙われることになる。ヒッチコック映画の流れを汲んだ「巻き込まれ型スリラー」だが、アイデアは悪くないと思うものの、ヒッチコック映画にあったゴージャスな感じが欠落した地味目の映画になってしまった。

 主演のイライジャ・ウッドはがんばっているのだが、犯人役のジョン・キューザックには、暗闇の中から声だけで主人公をコントロールしようとするカリスマ性が感じられない。どちらもハリウッドスターだからネームバリューとしては釣り合いが取れているのだが、これは映画がキューザックの見せ方に失敗しているのだと思う。やっていることの回りくどさを考えると、犯人には単に目的達成のため主人公を追い込むというだけでなく、サディスティックで支配欲の強い性格があるのだろう。だがキューザックの外見からは、そうした性格が見えてこない。また主人公の妻を演じたケリー・ビシェも、役柄の上ではハリウッドの有名女優で超セレブ、なおかつ主人公とは仲のよいアツアツのカップルという設定なのだが、とてもそうは見えない。主人公がこの妻をいかに愛しているかがきちんと描かれていないと、映画の中で犯人が「妻を殺す」と言っても脅しが効いてこないのだが、映画序盤でこの夫婦が一緒にいる場面がほとんどないのは脚本の構成ミスだろう。

 本作はスペインとアメリカの合作映画。主人公は国際的なピアニストという設定なのだから、主人公夫婦以外を全部スペイン人の俳優で固めてギャラを安く上げれば、主人公の妻役にもう少し華のある女優を使えたと思うのだが……。主人公の妻は『知りすぎていた男』(1955)のドリス・デイの役回りなのだから。

 監督のエウヘニオ・ミラは作曲家でもあり、劇中で演奏される「ラ・シンケッテ」も監督が作曲したのだという。

(原題:Grand Piano)

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2014年3月8日公開予定 新宿シネマカリテほか全国ロードショー
配給:ショウゲート 協力:ハピネット 宣伝:スキップ
2013年|1時間31分|スペイン、アメリカ|カラー|スコープサイズ
関連ホームページ:http://grandpiano-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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