ゲノムハザード

ある天才科学者の5日間

2013/11/27 アスミック・エース試写室
ひとつの死体と失われていく記憶を巡るミステリー。
韓日合作だがほとんど日本語。by K. Hattori

13112702  その日は彼の誕生日だった。新宿のデザイン会社に勤めている石神武人は、誕生祝いの準備をしているであろう妻の待つ自宅に戻るが、そこで見つけたの床一面に灯るロウソクの光と、物言わぬ妻の遺体だった。いったいなぜ妻が死んでいるのか。突然のことに気が動転する石神だったが、そこにかかってきた電話に彼はさらに驚くことになる。電話をかけてきたのは妻だ。今自分の目の前で死体になっている妻本人が、電話の向こうで自分に向けて話をしている。電話をかけているのが妻なら、目の前の死体は一体誰なのか。死体が妻だとしたら、電話の主は一体誰なのか。完全に混乱しきっている石神に追い打ちを掛けるように、自宅を訪ねてくる二人組の刑事。明らかに挙動不審な石神を見て部屋に踏み込んできた刑事たちだが、部屋の中からさっきまであったはずの死体が消えている。自分の周囲で何が起きているのかまったくわからないまま石神は男たちの車に乗せられるのだが、すぐに彼らが偽刑事で、自分が誘拐されそうになっていることに気付くのだった……。

 司城志朗の同名小説を、『美しき野獣』のキム・ソンス監督が脚色・監督したアクションたっぷりのサスペンス・ミステリー映画。面白い話だと思う。出演者たちも頑張っている。しかしミステリー映画としても、サスペンス映画としても、アクション映画としても、いまひとつ冴えたところがない平均点以下の作品になってしまっている。まずダメなのは脚本だ。ストーリーやエピソードが未整理で、物語は序盤から混乱して支離滅裂な迷走飛行をしている。もちろん映画は主人公の記憶の混乱を扱っているのだから、主人公の一人称視点では世界が大混乱してしまうのは当然だ。だが主人公の混乱した世界を「混乱したもの」として描くためには、映画自体は理路整然としているべきなのだ。主人公以外の人間が全員「正常」であればこそ、主人公の「異常さ」が際立つはずなのだ。

 これはボタンを掛け違えたヒッチコック映画だ。ヒッチコック映画では、健康な精神と思考能力を持つ主人公が、しばしば狂った世界に放り込まれてしまう。観客の視点の代弁者である主人公は、その狂った世界から逃れるために孤軍奮闘するわけだ。しかしこの映画では主人公自身が狂っているのだ。狂った主人公が狂った世界に放り込まれてしまうのだから、映画自体が大混乱になることは避けられない。ならば主人公の同伴者として「正常」な人間を側に置けばいい。この映画では韓国人女性記者のカン・ジウォンがその役目を果たせるはずだったのに、脚本はそれを無視して石神中心に物語を回そうとしている。女性記者が物語を整理し、散りばめられた謎を交通整理するだけで映画としてはだいぶ理解しやすいものになっただろうに……。

 西島秀俊は激しいアクションにも挑むなど熱演。しかしその熱演が空回りする残念な作品だった。

(原題:무명인 Genome Hazard)

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1月24日(金)公開予定 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
配給:アスミック・エース 宣伝:アルシネテラン、フラッグ
2013年|2時間|韓国、日本|カラー
関連ホームページ:http://genomehazard.asmik-ace.co.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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