ジェリー・フィッシュ

2013/07/31 シネマート六本木(スクリーン3)
金子修介監督が描く残酷で美しい青春ラブストーリー。
R18文学賞の映画化第2弾。by K. Hattori

13073101  新潮社主催の「女による女のためのR-18文学賞」応募作品からの映画化作品第2弾。雛倉さりえの同名小説を高橋美幸が脚色し、金子修介が監督している。脚本の高橋は「R-18文学賞」映画化第1弾の『自縄自縛の私』(2012)にも参加しているが、金子修介監督とは『ばかもの』(2010)で組んでいる。『自縄自縛〜』と『ばかもの』は未見なのだが、今回の映画は金子修介監督らしいリリカルな女の子映画に仕上がっていて好印象。主人公を演じた花井瑠美と大谷澪はどちらも映画初主演だが、その固くて初々しい演技のぎこちなさや危なっかしさが、主人公たちのキャラクターに見事にはまっている。金子作品で言えば『1999年の夏休み』(1988)や、『毎日が夏休み』(1994)に通じる世界だと思う。臆面もなくこういう映画を撮れるのは、金子監督の他にはなかなかいないと思う。

 高校のクラスメイトである二人の少女が、同性愛的な絆を深めていくという物語だ。クラスの中で少し孤立している宮下夕紀に、最初に声をかけたのは篠原叶子の側だった。水族館のクラゲの水槽の前での突然のキス。それから二人は急速に距離を縮めるが、叶子はクラスの男子生徒に告白されて彼と付き合うようになる。彼とセックスしていることを、あっけらかんと夕紀に話す叶子。そんな叶子の態度に、夕紀は深く傷つけられる。だがある日、夕紀は中学時代の叶子についての悪い噂を聞いた。そのことが原因で、夕紀と叶子の関係は大きく揺れ動いていく……。

 これまでいろいろな恋愛映画があり、いろいろな悲恋物語が作られてきたけれど、性指向を巡るすれ違いドラマというのは新しいなぁ……というのが映画を観終わっての印象だ。夕紀と叶子は愛し合っている。気持ちは強く引かれ合って、固く結びついている。でも肉体的には、二人が結ばれることはない。叶子は相手が男性であれば、そこに愛がないとわかっていても肉体的に相手を受け入れることができる。でも相手が夕紀になると、自分自身の肉体が女性である夕紀を拒んでしまうのだ。夕紀は叶子を愛しているがゆえに、そうした叶子の存在を受け入れる。自分の前で、叶子がありのままの叶子でいることを願う。でもそれは、自分自身が拒まれ、それ以上には叶子との距離が縮まることがないという現実を受け入れることでもあるのだ。

 自分の性的指向に曖昧な自覚しか持てなかった思春期の少女たちが、自らの性的指向を自覚するまでの物語。恋に恋した少女たちが、セックスの問題にぶつかって苦しむ物語でもある。映画のラストシーンで、主人公たちがそれぞれのパートナーと連れ立って一瞬すれ違うシーンの何という残酷さ。彼女たちはもう二度と、あの「曖昧な青春時代」に引き返すことはない。その青春の、何という苦しさ、何という切なさ、そして何という美しさ! でもそれがどれほど美しくても、そこに再び戻りたいと願う人はいないだろう。

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8月31日公開予定 シネマート六本木
配給:よしもとクリエイティブ・エージェンシー
2013年|1時間32分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.r18-jellyfish.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:ジェリー・フィッシュ(雛倉さりえ)
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